三軒茶屋 神戸 桐生 各店モーニング推しです。
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忘却の彼方

ボクも一応ヒトの子なんで、母ってのがおるわけなんですが、今年でちょうど80になるんですよ。
1946年生まれ、戦後の翌年に生まれた、いわば戦後育ちなわけです。

その母はずっと、父と2人で札幌の広い一軒家に住んでいたんですが、父がコロナの最中に亡くなって、それ以来ひとりになってしまいましてね。
「ここを終の住処」と言って意地を張っていたんですが、現実問題、ひとりではもう家の片付けもできなくなってきた。このままでは生活が立ち行かなくなるなと思って、まあ半ば無理やり東京に連れてきたわけです。

で、その母がね、もともと札幌にいた頃は、父が「病院に行け、薬を飲め」という感じのヒトだったもので、コレステロールが高いからと薬を飲み続けていたんですよ。
ボクはこういう性格なんで「惰性の病院通いはやめてほしい」と言って、東京に来てからもう3年近く経ちますが、ただの一度も病院には行っていないんです。

そしたらですね、これがめちゃくちゃ元気になりまして。
肌荒れがひどかった母が、もういまや生まれ変わったようにツルツルのゆで卵みたいになったんですよ。
昨晩も「すごい肌綺麗になったね」って言ったら、「そりゃそうよ、息子の近くに住んでるもの。息子の近くに住んでれば肌も綺麗になるってものよ」なんて言うわけです。
「自分は札幌に居座ると駄々をこねてたじゃん」って言ったら、「そんなこと言ってないわ」ってとぼけてるんですけどね。

80になった母はですね、1分前のことを覚えていなかったりする。何度も同じ話をして、東京に来てもその辺をぶらつくこともできず、デイサービスかほぼ家にいます。
そういう意味では少しかわいそうな生活とも言えるんですが、昔のことはやたら覚えているので、昔話なら普通の会話ができるんですよ。

で、そういうことがわかったので、昨晩ちょっと母と、今の世の中のおかしさについて話してみたんです。
世界の頂点に立つような王様や貴族、その界のトップというヒトたちが、子供たちを誘拐して虐待して、それを儀式にして、隠蔽するために組織的に殺戮を繰り返していたということが明るみになってきているよ、なんならその子供たちを殺して食べたりもしていたんだよ、と。

そしたら、ボケているはずの母が、怒り出しましてね。
「そんなバカなことがあっていいはずがないじゃないか。なんでそんなことが起きているんだ」と言い出して、「啓央、あんたはそれを聞いて黙って見てるのか。カフェなんかやってないで政治家になって世の中を変えなさい」って言うんですよ。

彼女の中にある、なんていうか「正気」というのかな。
曲がったことはダメでしょ、という感覚が、余計なことをぜんぶ忘れてしまっているからこそ、純粋に「ダメなものはダメ」という形で残っている。
そのことに、ボクはちょっと驚いたわけです。

ボクはそこで母にこうぼやきました。
「お母さんがね、昔ボクに『ちゃんとしなさい、社会の役に立つヒトになりなさい、曲がったことをしちゃいけません』と教えてくれたけれど、社会はどんどん曲がっていったんだよ。
それでボクはどれだけ生きづらい人生を送ってきたか」と。

自分が産んだ子を愛しているという気持ち、誇らしい気持ち、社会が曲がってんだったら息子よお前が立ち上がれという正気が、そのぼんやりした老母の中にちゃんと残っている。
世間体というのは正気の外側についた、いわば鎧みたいなものなんだということが、「忘却」によってはっきり見えてきた、とボクは思う。

現役世代のヒトたちがしがらみの中で、なにが最適解かとぐちゃぐちゃ考えているけれど、子供とお年寄りはその純粋さで、真っ当な正論をかざす。
純粋さの役割というものを、昨晩ちょっと感じた、というそんなお話でした。

 

天才よち丸ラジオ/vol.631 忘却の彼方