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御影の晩秋を歩く│2025年10月

「暦の手帖」も四作目になりました。
これまで花を見たり、町を歩いたりしてきましたが、今回は海から住吉川をさかのぼり、御影という町を育ててきた「水」をたどる旅です。

正直、この撮影が終わるまで、酒づくりと素麺づくりが、同じ水の流れでつながっていたなんて考えたこともありませんでした。

だんだん欲が出てきた

ロケは海辺からスタート。
六甲ライナーに乗って住吉へ向かい、そこから住吉川に沿って上流を目指します。
今回も井川さんが東京でルートを調べてくれていました。
御影で店をやっている僕より、相変わらず井川さんのほうが詳しいんです(笑)。

撮影も、だんだん欲が出てきました。
動画の冒頭で登場する素麺も、「それっぽいもの」で済ませるのではなく、MAMEHICOでちゃんと茹でて、お皿に盛り付けて現場まで運びました。

映るのはほんの一瞬です。
でも、その一瞬を大事にするようになったのは、「暦の手帖」を続けてきたからかもしれません。

今回、僕がいちばん緊張したのは、阪急電車を撮る場面でした。
電車は十分おき。失敗したら、もう十分待ちです。
「ここでミスしたら、みんなを待たせるなあ」と思いながら撮りましたが、なんとか一回で成功しました。

一方、井川さんはというと、「そんなところまで下りるの!?」という場所から撮っています。
住吉川の斜面を下り、水の中に三脚を立て、川面すれすれからカメラを構える。
完成した映像は静かできれいですが、その裏では、なかなか体を張っています(笑)。

川から見えた、町の歴史

この作品でいちばん印象に残ったのは、景色ではありませんでした。
海から川を歩き続けるうちに、「水」が町をつくってきたことが少しずつ見えてきたのです。

急な流れが水車を回し、その力で米を磨き、小麦を挽く。
その土地で採れる御影石が石臼になり、人が暮らし、町が育っていく。
それまで別々に知っていた話が、一つの川を歩いただけで、全部つながりました。

もちろん、一谷さんは途中でも草花を見つけては立ち止まります。
満開の花だけではなく、実をつけた草や落ち葉にも目を向けるので、僕まで足元を見るようになりました。

最後にたどり着いたのは、山奥に残る水車跡です。
本当にあるのかな、と半信半疑で歩いていましたが、目の前に現れた石組みは想像以上でした。
写真で見るのとはまったく違います。
海から自分の足で歩いてきたからこそ、「ここで町が育ってきたんだ」と実感できました。

季節を映す。季節を歩く。

そして、この撮影をきっかけに、一谷さんと一緒に歩く「みちくさ散歩」が始まります。
お店の近くを歩いて、草花を見つけて、少しだけ摘んで帰る。
特別な場所じゃなくても、季節はちゃんとそこにある。

「暦の手帖」は映像をつくるために始まりました。
でも四作目まで来て気づいたのは、それだけじゃなかったということです。

映像をきっかけに町を歩く人が増え、景色を見る人が増えていく。
そんなふうに、「暦の手帖」は少しずつ、画面の外へ広がり始めていました。