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観察するようにパンを焼く
「趣味は?」と聞かれると、
いつも「映画鑑賞です」と答えてきました。
子どもの頃から映画が好きで、そのきっかけは母でした。
週末になると家族で映画を借りてきて、
夜になるとみんなで一本観るのが楽しみでした。
母は俳優の顔を覚えるのが驚くほど得意で、
特殊メイクをしていても、太ったり痩せたりしていても、
「この人、あの作品に出ていた人だよね」とすぐに気づきます。
大人になって映画を観ていると、
気づけば私も母と同じことをするようになっていました。
「あ、この人、前にも別の作品に出ていた。」
どうして分かるんだろう、と考えてみて…、
役柄が変わっても、その人らしさは
意外と隠しきれないものなのだと気づきました。
顔だけではなく、歩き方や笑い方、話し方、ふとした仕草。
どんな作品に出ても消しきれない、
その人らしさを見つけることが何より楽しくて、
映画を見続けてきたんだと気づいたんです。
だから、映画が好きというより、人や物事を
観察することが好きだと言った方が正しいかもしれません。

そんな私が今、夢中になっているのがパン作りです。
おいしいパンに出会うと、
「どうしてこんな香りになるんだろう」
「噛めば噛むほど旨味が増すのはなぜなんだろう」
と気になってしまいます。
調べて終わりではなく、自分でも試したくなる性格が、
パン作りへの興味の始まりでした。

作っていくうちに、小麦のことや発酵のことが気になり始め、
「せっかくなら酵母から育ててみたい」と思うようになりました。
今では、酵母づくりからパンを焼き上げるまで、
およそ10日ほどかけています。
毎日少しずつ酵母の様子が変わり、
ぷくぷくと泡が増えて元気になっていく姿を眺めるのが楽しみです。
思えばこれも、あの観察癖がいちばん表れている時間なのかもしれません。

手をかけすぎても、ほっておきすぎても、うまく育ちません。
その日の気温や湿度によっても表情が変わるので、
「今日は元気そう」「今日は少し静かだな」と、
小さな変化を観察する時間が好きです。
失敗することもあります。
でも、その理由を考え、また試してみる。
その繰り返しも含めて、パン作りの楽しさです。
うまく進めば「発酵」と呼び、
思うようにならなければ「腐る」と呼ぶ。
その違いは人間の都合なのだと知って、
自然の営みの面白さを感じています。

昔は「趣味は映画です」と答えていました。
でも今は、「パン作りです」と答えると思います。
パンを焼くことはもちろんですが、
なによりその過程を観察し、小さな変化を楽しみながら、
少しずつ自分なりの答えを見つけていく時間そのものが、
私にとって一番の趣味なのだと思います。



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