善から生まれた悪

8月6日に広島、8月9日に長崎、そして15日には終戦。
子供の頃からテレビで戦争体験を語るお年寄りを見て育った世代なので、「あんなひどい戦争は二度と起こしちゃいけない」という、戦後教育に組み込まれた感覚が、ボクの中にあるわけです。
ボクの父は島根の出身でして、東京から帰省するときは岡山まで新幹線で行って、そこから特急やくもに乗り換えるルートでした。だから岡山のついでに、よく広島の原爆資料館にも連れていかれました。「何が起きたのか」って父に聞くと、「日本が愚かだったから戦争をして、それを戒めるためにアメリカに原爆を落とされたんだ」というような説明をされましてね。
実際、松江にいた父方の祖父はフィリピン沖まで兵隊として赴き、命からがら戻ってきたヒトだったので、父の本棚には戦争についての本がずいぶん並んでいました。父なりに、「なぜ日本はあんな戦争に巻き込まれたのか」をずっと考えていたんだと思います。その結果として、悪いのは日本だった、という見方を身につけたんじゃないか。ボクはそう睨んでいます。
ボクも子供の頃、広島にも長崎にも何度も足を運んで、あの資料館を見てきました。でも正直、「これはちょっと違うな」とずっと思っていたんですよ。仮に日本が悪かったとしても、ここまで非人道的な扱いをされる筋合いはないだろう、と。人間の中の非人道性なんて、ヒトの数だけあるじゃないかって、子供心にいろいろ考えたものです。
で、そのあと自分なりに本を読んだり調べたりする中で見えてきたのが、日本人が持っている「独善性」というものでした。
例えば陸軍と海軍。同じ国の軍隊なのに仲が悪くて、互いに情報を渡さない、予算の取り合いをする、それぞれ別々に飛行機を作って部品すら融通しない。陸の人間と海の人間で気質が違うというのはわかりますよ。でも、あんな狭い日本の中でそれをやってしまうのは、国全体で見ればあきらかにマイナスだったとボクは思うんです。
戦争のことを自分の店の話に引きつけるのはちょっと強引かもしれませんが、飲食店でもキッチンとホールって、同じ店なのにまるで別の生き物みたいに動くことがある。連携が取れていない店は、キッチンがパッと出してもホールが持っていかない。日頃のコミュニケーション不足が積み重なって、そういうことが起きるわけです。
MAMEHICOにも、キャロットケーキの上にクリームチーズを塗るとき、ゴムベラを使う派とスパチュラを使う派がいましてね。ゴムベラ派は「洗い物が少ないし、ざっくりしたケーキなんだからこれでいい」と言う。スパチュラ派は妙に丁寧に、綺麗に仕上げる。じゃあ統一すればいいじゃないかとボクが言っても、「私たちはゴムベラ派だから」で終わってしまう。まるで陸軍と海軍ですよ。
自分たちがよかれと思ってやっていることだから、悪気はないんです。クリームチーズの塗り方くらい、ボクはどっちでもいいと思っているから、あえて止めません。でも、これがもし国を守る立場の人間だったらどうでしょう。総理大臣が「スパチュラで塗るべきだ」と言ったときに、現場が「はぁ?ゴムベラでしょ」って自分の判断を押し通したら、国民はたまったもんじゃないですよね。
日本があの戦争に突き進んでしまった一因も、この独善性だったんじゃないかとボクは思っているんです。陸軍は陸軍で、海軍は海軍で、それぞれが「自分たちはこれでいい」と思い込んで、すり合わせをしないまま突っ走ってしまった。そして結果的に、何十万人という国民が犠牲になる戦争になった。もう二度とあんな過ちは繰り返さない、と誰もが言うわけですが。
でも、MAMEHICOを見ている限り、この独善性はぜんぜん改められていないんですよ。ゴムベラ派とスパチュラ派だけじゃなく、泡立てる派と泡立てない派、お湯をそっとかける派とざっくりかける派。数え上げればきりがない。社長のボクが「ここは統一しよう」と決めればいいのかもしれませんが、うちはカフェですから、そのくらいはどっちでもいいと思っている。ただ、本当に大事な決めごとに関しては、ちゃんと腹を割って一つにまとめていくリーダーシップが必要だなと、あらためて思うのです。
みんな真面目だからこそ、本気でスパチュラがいいと思っているし、本気でゴムベラがいいと思っている。悪意も手抜きもない。だからこそ厄介なんですよね。前例やそれぞれの正しさから生まれる悪、というものが確かにあるんだなとボクは思います。
自戒を込めて言うと、ボク自身もどこかで「うちはうちのやり方でいい」と思い込んでしまっている部分があるんじゃないか。皆さんの周りにも、そういう小さな陸軍と海軍、ありませんか。

何気ない言葉の中に、ふと立ち止まるきっかけがあります。
皆さんの周りに「小さな陸軍と海軍」ありますか?
ぜひ一度、耳を傾けてみてください。








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