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シホとレイナの往復書簡

水野知帆 東京

池田玲菜 神戸

06

2026年8月中旬 立秋

To.池田玲菜 様
From.水野知帆

東京から神戸へ

立秋を迎え、朝夕は秋の風を感じるようになりました。
「今年は涼しいね」とみんな言っていますが、むしろここ数年がおかしくて、今年が普通なんだよね、という声も。
なんにせよ、はやく秋になってほしいなと思う日々です。

さて、お返事ありがとう。
レイナの丸の内OL時代の話は、ちらっと聞いてはいたけれど、そういう経緯があったのと、興味深く読んでいました。

技術やスキルを学ぶ機会や方法は、これだけ情報が揃っている時代だから、本を読んだり、YouTubeを見たり、調べたりすれば、やり方は見つかる。
けれど、そういう「心の持ちよう」や「姿勢」といった、人間的に大切な部分を学べる機会や場所って、そう多くない気がする。

歳を取れば取るほど、それを感じるから、レイナにとってその時期は大変だったと思うけど、ある意味では幸運なことだったんじゃないかなと思うよ。
そういう、頭じゃなくて体で学ぶことって、あるよね。

私にも、最近そういうことがあって。
あの手紙を書いていた時、落ち込んでいた私ですが、今回は夏風邪をひいてしまいました。
「病は気から」といいますが、いやいや、まさに。
周りがシフトを調整してくれて、早く帰らせてもらったりして、なんとか回復しましたが…なんとも情けない劇場パート2です。

市販の薬を飲んで寝てみても、一向によくならず、焦りに焦った日々でした。
寝たら治っていた、あの自分の回復力は一体どこに行ったのか。
早くよくなってほしいのに…。

そんな時、私の先輩であるトモちゃんに「ちゃんと食べてる?」と聞かれました。
「食べてますよ!昨日はチャーハンを。」
それは、私が冷蔵庫を見て、「これ、作れそうだな」と思って作ったものでした。
とにかく食べないといけない、という頭はあったのです。

すると、トモちゃんはそれを聞いて、びっくり仰天。
「な、な、なんでそんな消化に悪いものを食べてるの!?」
ちょっと待って、と、バババッと賄いで作ってくれたのが、鶏がゆでした。

見た目からしてすごくおいしそう。
そこにとろとろの青菜を入れて食べると、めちゃくちゃおいしい。
体もあったまって、汗がすごく出る!
病人にはこれが、ほんっと、おいしかった!

「急いで食べないでね。
ゆっくり、味わって食べるんだよ。
そしたら消化されて、少量でも、ちゃんと満たされるんだから。」

私はそれを聞いて、子どもの頃に戻ったような気持ちで、汗なのか涙なのか、もうよく分からないままに、味わって食べました。

その後、自分でもやってみたのね。
何か甘くておいしいものが食べたいなと思って、桃をむいてみる。
冷蔵庫には冷えたお茶があるけど、なんか今は、あったかいお茶が飲みたい。
急須に茶葉を入れて、好きな器で飲んでみる。

トモちゃんが作ってくれた鶏がゆと比べると、手間暇も全然かかっていないんだけど、でも、すごくおいしかったし、体もあったまって、すごくホッとした。

思えば、大人になってから、というか、中学生あたりからなのかな。
「味わって食べる」ということを、ないがしろにしてきた気がする。
それよりも、勉強しなくちゃ。仕事しなくちゃ。とにかく頑張らなくちゃ。
そうやって焦って仕事をして、体調を崩して。
それじゃ意味ないじゃんね。

昨日よりも何かできるようになる、ということも、もちろん大切で、達成感もある。
けれど、それだけで満たされようとしては、疲れてしまう。
続けるためには、日々の食事といった、普段の暮らしの中で、小さく小さく自分を満たすことも、大切なんだね。

レイナが身をもって学んだように、私も今回、体で大切なことを教えてもらった気がします。
何はともあれ、体調管理には気をつけようね。

東京から神戸へ

To.水野知帆 様
From.池田玲菜

神戸から東京へ

お手紙ありがとうございます。
夏風邪、大変でしたね。
焦ってばかりで、食事とか体調管理とかを疎かにしてしまっていたという話、「あぁ、私もそうだったなぁ」と思いながら読みました。

私も昔、
「疲れてヘトヘトになると、帰りに駅前でタピオカミルクティーを飲むのが好きなんです。甘いのに癒されて、満腹感もあるから、そのまま帰ったら晩ご飯は食べずに寝ています」
と話したことがありました。

すると、先輩が
「空きっ腹にそんな甘いものを入れたらだめだよ!
そのあと寝ちゃうのも、血糖値が急に上がってるからかもしれないよ。
そんなこと続けてたら、体に良くないよ!」
と、血相を変えて注意してくれました。

そして、そこからしばらく、私が甘いものに逃げないように、シフトが終わる時間に余った玄米を小さなおにぎりにして、渡してくれたりしたのです。
シホちゃんの鶏がゆの話を聞いて、思い出しました。

私はずっと、「良い評価」が欲しくて欲しくてたまらない人でした。
疲れてヘトヘトになるまでヴァイオリンを練習して、放課後の友達との遊びを断って中学受験の塾に行って、合格して入った中学、高校でも、うまくやることに必死でした。

だから、家に帰ってきたら一歩も動けなくて、ご飯も食べずに寝て、朝、遅刻しそうな時間に起きる。
たまには、そのまま学校を休んでしまうこともありました。

その頃は、「もう動けない」というところまでやりきることが、「努力・頑張り」なんだと勘違いしていたんです。
今思えば、そんなふうに生活を蔑ろにして、良い人間になんかなれるわけないですね。

MAMEHICOで働くようになってから、ようやく私は、自分が蔑ろにしてきた「生活」そのものの価値や重要性を教えてもらいました。

MAMEHICOの仕事で、できないことや失敗はたくさんありました。
でも、注意されるのは、その小さな一つ一つのことではなく、
「ぼーっと仕事しない!」とか、
「振り返って確認する!」とか、
自分の仕事への姿勢のことばかりです。

テストの点数とか、そういう小手先の、その時さえよければいいようなものばかり頑張ってきてしまったけれど、「仕事の姿勢」は「生活」から整えないと変えられない。

一時だけ火事場の馬鹿力で頑張るんじゃなくて、ずっと意識して、習慣化するまで続ける。
そういう「努力」をしないと、私が見たい景色を見られるようにはならないんだなと思いました。
そんなふうに、今も努力中ですが、以前のように頑張っていた時より、人生、楽しいです!

生活を整えると、自分が満たされていく感覚が確かにあります。
できない自分に向き合い続けなきゃいけない辛さはあるけれど、でも、以前のように、外の他者からの「良い評価」を渇望する自分もいなくなりました。

自分とお話しして、生活を整えること。
それが楽しくて、幸せだと思っています。
きっとシホちゃんもそうだから、MAMEHICOで働き続けているんじゃないかな?と思っています。

そんなことを考えながら、ふと御影店のことを思いました。
私自身がここで「生活」の大切さを教えてもらったように、御影店もまた、みんなの積み重ねで少しずつ変わってきたんだな、と。

先日までのお盆休み、御影店は賑わいました。
そして、喫茶営業だけの一日としては、過去最高売り上げを達成することができました!
何もかも、これまでの積み重ねだなって思いました。

みゆきさんのモーニングライブは、何の気なしに入ってきたお客さんに、「なんだろう、ここ?」ってワクワクしてもらえる時間に、どんどん仕上がっています。

シゲさんがMINIの店番に立っていると、確実にモノの良さを伝えてくれて、しっかりと売り上げを立ててくれます。

さくらさんは、キッチン担当というポジションから、マフィンを通してお客様と直接関わるパートも担うようになっています。

私は、東京の先輩たちに5年かけて、たくさん教えてもらった経験があります。

もっとたくさんの人に、「良いお店があるよ」って知ってもらいたい。
そして、多くの人にとって、人生の中で疲れた時こそ行ける場所でありたいと思う。

そんな明るい御影店の展望を語りつつ、なかなかの疲労感が襲ってきたので、「みんなしっかりおやすみしましょうね」となった、お盆休み営業でした。
シホちゃんの思うこと、また次も聞かせてください!待ってます。

神戸から東京へ