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未完成の手帖

先週、桐生のお祭りにロケに行ってきたんですよ。
「暦の手帖」の桐生編、その第2弾でね。

神戸の「暦の手帖」の方はもうご覧いただいている方も多いと思うんですが、あちらがリニューアルして尺も30分の拡大版になったもので、桐生の方もそれなりの内容にしようということで、今回はけっこう頑張ってロケをしたんです。

ただ、面白いのはそのやり方でしてね。ナレーションはAI。撮影はボクがジンバル付きのカメラで歩きながら撮って、マイクもワイヤレスでピャッと飛ばす。昔テレビの現場にいた頃なら、カメラマンと照明さんとディレクターとADと、専門部隊がずらっと揃わないとできなかったことが、今はもう自分たちだけで気軽にやれてしまう。ボクからすると、これは覚醒の感ありなんですよね。作りたいものがあるヒトにとって、今はほんとにいい時代だと思う。

もちろん出てるのは素人ですから、拙さみたいなものはどうしたって表に出てしまう。でもね、その拙さこそが売りになるという気もするんですよ。AIがどんどん進化して、レポーターすらAIで作れるようになっていくかもしれない。そうなると情報はちゃんと伝わるけれど、そのヒトが持っている「綻び」みたいなものが消えてしまう。そういう綻びを愛でるところが、ヒトにはあるんじゃないかとボクは睨んでいるわけです。共感を持って見てもらうためには、その綻びこそが大事なんじゃないかと。

さて、岡倉天心という美術家の書いた「茶の本」という本があるんです。今から120年ほど前のヒトが英語で書いた、日本文化を紹介する本なんですが、この中にこういう下りがある。茶道の本質というのは、完全なものではなく、不完全なものを大事にすることなんだと。

たとえば茶室に花を活けるとしても、満開に咲いたボタンより、今まさに咲こうとしているつぼみの方がいい。なんなら花が終わりかけて、花びらが一枚二枚、下に落ちている。それをそこまで含めて活けるということが、茶道の本質なんだそうです。

なぜそれを良しとするのか。
茶道というのも結局、宇宙の法則――武士の精神から来ているものだから。完璧に作った瞬間から、それはもう衰退へ向かっていく。無常ですよ、無常。世の中はすべて回転運動であって、ピークがあれば必ずそこから衰えが始まる。夏至を過ぎれば日は短くなっていく。だからこそ、点で捉えるんじゃなくて、その回転運動そのものを愛しましょうという考え方なんですね。花だってつぼみから咲いて散るまでの一つの回転運動なわけだから、その途中を愛でた方がいい。完成品より未完成なものの方がいい、という発想です。

そう考えると、MAMEHICOも毎日お店を開けるということだから、瞬間風速を狙ってもあまり意味がないんですよ。すごいスタッフ、すごい食材、すごい空間を目指してしまうと、必ず無理が生じる。今日はすごく良かったけど明日は良くない、ということになる。開けた直後はお客さんがいなくてパラパラ入ってきて、昼過ぎに混んで、雨の日は来ない。これはもう円運動だと思って付き合うしかないんですよね。

数字で見ると、去年より今年は売上を何パーセント上げなきゃいけない、みたいな高みを目指すこと自体は悪くない。でも数字だけで測っていくと、その運動的なものを感じ取れなくなってしまう。だからなるべく、未完成なものを愛おしむということが必要なんだとボクは思うわけです。

もちろん目標数値を決めて突き進むことが、社会で生きていく上で立場的に求められることもあるでしょう。でも「暦の手帖」もMAMEHICOも、やってもやらなくてもどっちでもいいことなんですよね。だから、その瞬間をただ記録すればいい。手帖っていうのはメモなんだから、その日その日に起きた出来事が、メモ帳のようにそのまま映っていればいいんだと思っているんです。

見る側からすれば、貴重な時間を使うわけだから、もう少しエッセンスを集約してくれた方が親切かもしれない。でも、そういうものはもう世の中に溢れてしまっている。がっつり付き合ってくれれば、余白も含めて大事にしていることが伝わるんじゃないか。それがみんなの役に立つとは思わないし、今の人たちのニーズを組み取ったマーケティング的なことをやろうと思えばできないこともない。でもそれをやると、お店やスーパーがどんどん変えていくように、こちらもきりがなく変え続けなきゃいけなくなる。

ボクらがやろうとしているのは、そういうニーズに答えることよりも、自分たちの中に感じているこの世の中の違和感を、なんとなくみんなと共有すること。それでちょっとほっと一息つけたらいい。戦国時代、茶室というのは、戦って勝つか負けるか、人を殺すか殺されるかという緊張の中で、身を置くことで何のためにやっているのかを振り返る時間だったそうです。

だから、今のような先行き不透明な時代だからこそ、ボクらは未完成のものを提示するカフェでいたいと思っているんですよね。

「天才よち丸ラジオ」のご視聴はこちら
MAMEHICO代表・井川さんのラジオです。
何気ない言葉の中に、ふと立ち止まるきっかけがあります。
未完成なものを愛でる心とは?
ぜひ一度、耳を傾けてみてください。
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