数寄屋

さて。今日の話題は「スキヤ」です。
スキヤって音だけ聞くと、牛丼屋かって思われるでしょう。まあ実際、牛丼屋のスキヤもそこから発想を得ているんじゃないかとボクは睨んでいるんですが。スキヤっていうのは、要するに茶室のことなんですよ。
銀座店のすぐ近く、有楽町の駅前に、数寄屋橋交差点というのがあります。あの数寄屋も、茶室のこと。江戸城の茶室まわりを預かる役人が、この近くに住んでいたことに由来すると言われています。すぐそばの有楽町という地名も、織田有楽斎という茶人の名から来ている、という説がある。あのあたりは、もともと茶の匂いのする土地なんですね。
このスキヤ、漢字で書くと「数に寄せる」と書いて「数寄」と読ませます。日本人特有の当て字でして、音から漢字を当てているだけ。もともと意味があったわけじゃない。
ボクが思うに、「好き」という字には、いわゆる男女の情愛的な「好き」の意味合いも含まれてしまう。あなたのことが好きよ、というあの好きですね。それだとちょっと下品というか、風流とは違う。だから、色恋とは違う「好き」を表すために、「数寄」という字を当てたんじゃないか。
つまり数寄屋とは、風流なもの、詫び寂びを尽くしたものを寄せ集めた建物、という意味です。
そもそも茶室というのは、ヒトが泊まれるわけでも住めるわけでもない。何の役にも立たない建物です。役に立たないからこそ、そこに宇宙とか、生命とか、神秘とか、そういうものを組み込むことができる。
これは、武士道の系譜です。
戦国の武将たちというのは、戦ってヒトを殺すか殺されるかという中で生きている。そのなかで、なぜ生きているのか、なぜ戦うのか、どうせ死ぬならどう美しく死ぬのか、生きるならどう美しく生きるのか、という美学を持っていた。その命のやり取りの合間に、茶室を好んで作った。お茶を飲みながら、なぜ生きているのかを考えたわけです。
これが近代になると、ヒトなんてただの物質で、死んだら終わりだ、という話になっていく。生きてるうちが花で、死んだらそれまでだから、今を謳歌すればいい。好きに生きる、というより、下品に生きる、というのかな。そういうことが、今の時代にははびこっているとボクは思います。同じスキヤでも、贅沢を尽くして茶室を作れば、それはそれでスキヤになる。でも、安いほったて小屋であったとしても、スキヤはスキヤなんですよ。そこにそのヒトの美学が貫かれていれば、どう生きたいかが伝わってくる。それが大事なんだと思う。
MAMEHICOは、スキヤでありたいと、ボクは思っている。なるべく自分たちの好みじゃないものは入れたくない。とはいえボクもそれほどエッジの強いタイプじゃないので、いろんなものが混じってはいるんですけどね。それも、ボクのスキヤ。
コーヒーを飲むためだけの場所で、MAMEHICOがなくたって誰も困りはしない。ただ、ボクやそこに集まるヒトたちの、なんとなくの「好き」が集まった空間なんですよね。
MAMEHICOは、最初の数年は本当に食事を一切出していなかった。出したくない、と思っていたんですよ。今でいう純喫茶に近い、コーヒーと豆だけの店をあえてやっていた。「食事ないんですか」とお客さんに言われて、スタッフが「すいません、食事ないんですよ」と答えて、じゃあ帰ります、となる。当然お客さんも来ないし、売上も立たない。
でもそれは、ボクの中に「茶室でスパゲティなんか出さない」「うちは食堂をやりたいんじゃない」という思いが強くあったから。
今は食事も出しています。それはお金のこともあって、背に腹は代えられないというところもある。でも心のどこかで、極力食事は出さないでいたい、という気持ちが今もある。それはたぶん、この「好き」というものがあるからでしょうね。
何年か前に御影で店を出したとき、その建物がもともと白鶴の建物で、ちょうど遊び心のあるような場所だった。ここは面白おかしいことをやるのにぴったりの場所ですよ、なんて言われましてね。昔のヒトは茶室を通して、詫び寂びの中で「人生は何のために生きるのか」を問い直した。今の時代の茶室といえばカフェなんだから、それをやっているのはあなたの意思というより、御影にいた先人たちの思いがあなたをここに連れてきたんですよ、なんてオーラの泉みたいなことを言われたこともありました。
先人に導かれたかどうかは、正直わかりません。でも、MAMEHICOをやるときにまずスキヤでありたいと思っていたボクが、たまたま数寄屋橋交差点の近くで店をやっている。宝くじ売り場に、あんなに行列ができているあの交差点です。
あそこを渡るたび、これは偶然じゃなくて、ボクの中ではある種、必然のストーリーの中にあるものだなと思ったりするわけです。

何気ない言葉の中に、ふと立ち止まるきっかけがあります。
「数寄」という言葉に込められた思いとは?
ぜひ一度、耳を傾けてみてください。








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