05
愛のらっきょう
閉店近くの三茶店にいるふたり。

- みさき
- 実は…、らっきょうって苦手で…(笑)
- トモ
- 美味しいのに。
- みさき
- MAMEHICOのらっきょう、初めて。本当に初めての、なんかのイベントの時に、お皿で出てて。
- トモ
- ハハハ。
- みさき
- 「らっきょう食べたことない」って言ったら、井川さんに「MAMEHICOのらっきょうは美味しいから」って言われて。そこで食べたのが最初で最後。
- トモ
- ああ、初体験。
- みさき
- だって買わないし。
- トモ
- 苦手なら、そうだよね。
- みさき
- カレー食べても、今あんまり、らっきょうってついてこないじゃん。お漬物にする感じになってるよね。だかららっきょうを食べる機会がない。
- トモ
- らっきょうって、作るのめんどくさくてコスト高だから無料提供はなくしてるんだと思うよ。ちょっと違うけど、このまえある回転寿司入ったら、ガリが大根で、大根なら生姜よりも安いもんなと思った。
- みさき
- まぁ、いただきます。ちょっと小ぶりなやつでいい、まずはね。ごめん、ビビってるの(笑)
- トモ
- らっきょうに、ビビんなよ(笑)

おそるおそる食べる。無表情になるみさき。
- みさき
- ん?
- トモ
- どう?
- みさき
- なんか。
- トモ
- なんかなに?
- みさき
- もっと辛いもんだと思ってた。
- トモ
- あ、ああ。
- みさき
- うん。
- トモ
- いや、まったく辛くないよ。
- みさき
- 全く辛くないんだね。甘酢だ。
- トモ
- そう。塩らっきょうっていうのもあるけどね。
- みさき
- ふーん。そう。辛くないんだ。
- トモ
- 生玉ねぎみたいなの想像してた?
- みさき
- 想像してないけど、想像してたのかも。
- みさき
- 正直で生きていきたいの。
- トモ
- うん、ワタシもだよ。
- みさき
- 美味しくないのに、美味しいとかいう人生は嫌だなって。
- トモ
- そうだね。
- みさき
- たとえば有名人とかだと、お金もらってそういう事言わなくちゃいけないでしょ。
- トモ
- 立場的にはそうかもね。
- みさき
- だったら、ワタシはいまのまま、正直に生きていきたい。
- トモ
- いいと思うよ。で、らっきょうは?
- みさき
- 美味しいかもしれない。
- トモ
- えっ(絶句する)、み、みさきちゃん。無理しなくていんだよ。
- みさき
- 無理じゃないの。ほんとに、なんか、美味しいって。
- トモ
- うそ。ほんと。だったら、嬉しい。
- みさき
- 飲み込む時、らっきょう。熱がすごい、らっきょうのエネルギーが喉を通り抜けてく。
- トモ
- そう、それがらっきょうなんだよ(と涙ぐむ)
- みさき
- これすごいエネルギーだね。ニンニクをいっぱい食べた時みたいな感覚になる。
- トモ
- 調子悪い時に食べてみて、らっきょう。
- みさき
- 支えになるんだね、らっきょうって。知らなかった。
- トモ
- そうなの。
- みさき
- からだの中にジジジと、電気が走る感じがする。
- トモ
- うれしい、夜なべして作った甲斐あった。
- みさき
- この甘酢が絶妙よね。
- トモ
- 酢と、お砂糖、それに塩。あと、鷹の爪が入ってるの。
- みさき
- もっと味が濃い感じなのかなと思ってた。
- トモ
- 辛くて味が濃い感じ?一体どんなもの想像してたの?
- みさき
- 思ってたよりずっとマイルド、強いのに、優しい。ジジジ。
- トモ
- これ買っていったお客さんで、らっきょう嫌いのヒトでも食べられるらっきょうだったからって、まとめ買いするヒトも何人かいるのよ。
- みさき
- 美味しいのかも知れないけど、比較ができない、ほかのらっきょうを知らないから(笑)
- トモ
- 初めて会ったのが、白馬の王子的な?
- みさき
- 多分、違うと思う。
- トモ
- 何が違うんだろう。
- みさき
- (無視して)ワタシね、お酢が得意じゃないの。
- トモ
- ああ、酸っぱいの?酢酸が?
- みさき
- 酢酸の方。酢の物とか、これはワタシの食べ物じゃないです、って思っちゃう。でも、これは後味もさっぱりして、口の中に変な酢が残らないし。強烈なイメージがあったけど全然いけるね。
- トモ
- そう、いくつも食べれる感じがする。

夢中でらっきょうを頬張るみさき。
- トモ
- これ作ってる方としちゃ、本当に言いたいこといっぱいあるんだけど。
- みさき
- 言ってください、聞かせてください。
- トモ
- この大粒のらっきょうを仕入れるのが、まず本当に大変なのね。
- みさき
- ああ、これは大粒なのね。たしかに大きい。
- トモ
- 大粒を揃えるってことが大変。買ったものの中に、小さい粒と大きい粒が混ざってるから。
- みさき
- へぇ、そうなんだ。
- トモ
- このらっきょうは、下北沢のオーゼキの青果担当のお兄さんがめっちゃ親切にしてくれてるから毎年用意できるの。何度もいうけど、下北沢のオーゼキの青果担当のお兄さんが本当に、最高(笑)
- みさき
- そのタレ目で頼み込んだんでしょ?
- トモ
- そう、このタレ目で頼み込むのいつも。でもダメな時はダメ。
- みさき
- どのくらい漬けたの?
- トモ
- 今年は、30kg。
- みさき
- 30kg、すごい多いよね(笑)
- トモ
- 5kgのお米袋が6袋。
- みさき
- すごいね。らっきょうだけでね。しかもカフェだしね。何するつもりって感じ。
- トモ
- Lサイズ30kgは結構大変だった。本当に一瞬の機会を逃すともう入ってこないよって、下北沢のオーゼキの青果担当のお兄さんに脅かされて。毎年そういう感じ。
- みさき
- そのヒトと付き合ってるの?
- トモ
- 付き合ってないよ、なんでよ。
- みさき
- いい感じだから(笑)
- トモ
- 今年はめっちゃ雨の日に、彼から電話が来て(笑)
- みさき
- 雨の日に彼から電話(笑)なんて?
- トモ
- いまから来れる?みたいな。
- みさき
- 雨の日に彼から電話で、いまから来れる?うわーー。
- トモ
- ワタシも、ふたつ返事で、「行けるよ」みたいな!
- みさき
- で、で?
- トモ
- らっきょうって、ほっとくと、どんどん芽が出てくるの。芽が出ると、味が落ちるから、彼も焦ってる。
- みさき
- 芽が出るから焦ってる。
- トモ
- だから彼は、芽が出る前に持ってってほしい。それで、
- みさき
- 雨の日に彼から電話で、いまから来れる?となるんだ。
- トモ
- 芽が出るから。
- みさき
- らっきょうは、時間との勝負なのね。
- トモ
- 迷ってる暇はなくて、彼から電話が来たら、もう雨が降ろうが、ヤリが降ろうが、「行くよ」で。断る選択肢はないの。去年、そのお兄さんが、「今年は20キロしか入荷できませんでした。すみません、自分の力不足です!!」って謝ってきて。向こうもそんな感じだから、ワタシもお願いした手前、ちゃんと行かなきゃ!みたいな。
- みさき
- 1年に1回、らっきょうで結ばれた絆か。
- トモ
- 彼も他のヒトに売っちゃえばいいから、別にワタシに売らなくても。
- みさき
- 切ない恋だね。
- トモ
- みさきちゃん、らっきょう食べ過ぎじゃない?
- みさき
- あっ、トモちゃんの恋バナ聞いてたら、ついつい。
- トモ
- べつにそんなんじゃないよ。
- みさき
- でも、お互いの気合いがすごいね(笑)でも30kgってどうやって下北から運んだの?
- トモ
- 台車。
- みさき
- は?
- トモ
- 彼からの電話で、「すぐ行く」って返事したものの三茶が忙しくて、誰も動けなかったから。銀座モーニング終わりのシホちゃんに(笑)「あのさ、台車持って急いで下北のオーゼキ行ってくれない、いいから早く」って。
- みさき
- 台車に乗っていったの?
- トモ
- 乗れるわけ無いでしょ。
- みさき
- だよね。台車持ってバスで行ってもらった?
- トモ
- え?うん、なにか?
- みさき
- いや、台車持ってバスでオーゼキに(少しもの思いにふけって)。まあいいや。
- トモ
- らっきょうは、1分1秒を争う。芽が出ちゃうから。
- みさき
- トモちゃんが取りに行ったんじゃないのね。
- トモ
- ワタシはお店。
- みさき
- なんか、なんだか、いろいろと。
- トモ
- ん?
- みさき
- すごい。
- トモ
- サイズにこだわらなければ、ここまでしなくてもいんだけど。
- みさき
- そうなんだね。たしかに売ってるらっきょうは小さいかも。
- トモ
- 今年は大きいものを選んで漬けたけど、大小を混ぜる年もあるんだよ。やっぱり大だけだと、数が揃わないから。
- みさき
- 品種は一緒なの?ただ大きさが違うってことなの?
- トモ
- 品種はふたつ、泥らっきょうと砂らっきょうというのがあって、鳥取の砂らっきょうが食感が良くて、美味しいよって、オーゼキのお兄さんが教えてくれた。
- みさき
- でも取りに行ったのはシホちゃん。
- トモ
- そうだよ。なにか?
- みさき
- いいの、それで?
- トモ
- ひと瓶で言うと、どうしても大も中も混じってくる。
- みさき
- そうなんだね。
- トモ
- なるべく大きいのだけって選んでくと、小さいのがいっぱいできちゃって売れなくなっちゃう。
- みさき
- ご苦労なんだ。
- トモ
- 最近はらっきょうも、売れ筋になってるから。あんまり手間かけられない。とにかく量を確保しないと。
- みさき
- そもそも、らっきょうをそんなにまでして作ってるのはなんで?
- トモ
- いまは女のヒトもみんな仕事してて忙しくて、家でこんなのやるヒト少ないだろうね。
- みさき
- 若いヒトとかは、とくにそうかもね。
- トモ
- それは淋しいなって。
- みさき
- それはそうだね。
- トモ
- だったら、MAMEHICOが代わりにやりますよっていう。これも元々やってたのは井川さんだけど、ある年、ちょっと多くできたから、お弁当クラブのヒトたちに「欲しいヒトにはあげるよ」みたいな感じから始まったって聞いた。
- みさき
- いまでは、もうやらないわけにいかなくなってきたみたいな。
- トモ
- いつの間にか、ワタシがらっきょうの仕入れから漬けるとこまでやるようになって、なんとなくそうなった。ここ数年、ハマってるリピーターが多い気がする。夏といえば、MAMEHICOのらっきょうねって感じ。

- みさき
- 何十キロも洗って、塩漬けして、塩抜きしてって、想像しただけでクラクラする(笑)
- トモ
- いやもう洗いは、ほんと大変(笑)洗って皮を剥いて、薄皮みたいなのがついてるんだけど、それをとるのがめんどくさい。それが終わったら、両端を落とす。
- みさき
- 頭とお尻を落としてるんだ。
- トモ
- 大きいけど細身なものは、上をちょっと長く落としてあげたりとか。ひとつずつ見て切ってる。お尻の部分は、なるべくギリギリまで落としたいとか。とにかくダッシュで下処理しないと。芽を切っても芽が出てくるの。
- みさき
- ゾンビか。
- トモ
- ほんと生命力がすごいの。
- みさき
- それはどうしたら止められるの?
- トモ
- 塩を加えるとようやく止まる。
- みさき
- 塩ってすごいね。お祓いに塩まくとか、意味あるんだね。
- トモ
- 昔は、頭切り落としてほっといたら、止まると思って、だけど止まらなくて芽が出てきちゃって。だからいまは、頭切れたらすぐ塩に漬ける。らっきょう週間は、全シフトを見直して。らっきょうシフトを作るところから。
- みさき
- いつやってくるかわかんないんだもんね(笑)
- トモ
- もう来ちゃったらやるしかない。ああ、らっきょう様。ワタシのすべてをあなたのために捧げますっていう。
- みさき
- 面白い。だから愛のらっきょうなんだ(笑)
- トモ
- 愛でしかないよ、らっきょう愛。

- トモ
- 塩につけたら10日ぐらいかな。発酵させていくの。やがてすごい臭いが部屋中立ち込める。ほんとその匂いがやばくて。らっきょうの屁って呼んでる。
- みさき
- それやってみたい!
- トモ
- 匂いがやばすぎてお願いできない(笑)店で作業したら、店内中がらっきょうの屁になる。
- みさき
- それはまずい(笑)塩漬けが終わったら、塩抜きするんでしょ。
- トモ
- いい塩梅に塩抜きするんだけど、ここが結構失敗しやすい工程なの。
- みさき
- こだわりすごいね。
- みさき
- 甘酢に秘密、なんかコツというかなんかある?配合とか。
- トモ
- 材料かな。きび砂糖と千鳥酢だけ。千鳥酢っていうのは、京都・村山造酢の昔ながらのお酢ね。コレしか使わない。
- みさき
- 酢でも違うんだね。
- トモ
- らっきょう、千鳥酢、きび砂糖、塩、唐辛子。以上。
- みさき
- 美味しいってそういうことなんだね。
- トモ
- 市販のらっきょうって漂白されてて真っ白でしょ。他にも添加物が入ってるよ、見てみて。
- みさき
- そうなんだね。
- トモ
- 当たり前だけど、食べ終わると中に液体だけ残るよね。それ捨てないでね。
- みさき
- 何に使うの、これは?
- トモ
- ドレッシングにしてもいいし。和え物のタレにしてもいいし。
- みさき
- これとごま油と醤油と、めっちゃ美味しそうだね。
- トモ
- 練りごまと混ぜて、ゴマダレもいいよ。
- みさき
- これは捨てるのがもったいない。
- みさき
- 日持ちはするの?
- トモ
- 全然する。賞味期限半年ぐらいになってるんだけど、一年経っても全然大丈夫。初めに買ったときと、最後に食べるのと、やっぱり食感も味も変わってくる。その変化も楽しんでねっていう。
- みさき
- お父さんに買ってこうかな。
- トモ
- 去年のらっきょうを買ったっていうヒトが、今年のを買っておうちに持って帰ったら、冷蔵庫に去年のがまだ残ってたって言って食べたらしいの。でも全然食感変わってなかった。びっくりしてたそう。一年ぐらいは全然状態がいけるよ、未開封なら全然大丈夫。

- みさき
- ちょっと気になることがあるんですけど、「喫茶エトワール」と書いてあるのはなぜ?
- トモ
- カフェで積極的に売らなくてもいいもの。だけど季節で無いと淋しいもの。作るのがめんどくさくてちっとも儲からないもの。こういうのはぜんぶ、「喫茶エトワール 愛のシリーズ」にしてるの、井川さんが。
- みさき
- 愛の梅干しもあるね。
- トモ
- 愛の梅干しは、群馬の梅干しを購入して、それを紫香邸の庭で干してるっていう謎なことやってる商品。
- みさき
- そうなんだ。
- トモ
- その梅干しは、すごいフルーティーで、美味しいの。甘い香りがする。
- みさき
- 酸っぱいだけの梅干しっていう感じじゃなくて?
- トモ
- まったく、酸っぱさがなくて。
- みさき
- すごい食べやすいの?
- トモ
- そう。それをさらに干して、ちょっと凝縮させると、しっとり柔らかいまま、味がぎゅっと強くなる。それを愛の梅干しってやってる。
- みさき
- とにかくへんなことやってるね。
- トモ
- とにかくへんなことやってるんだよ。



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