13

桐生の夏を歩く│2026年8月

MAMEHICOの井川です。

この夏、紫香邸のさちことリカコが、暦の手帖のロケで、
帯の織元、井清織物を訪ねました。
織機は、ものすごく激しく動くので、すぐ壊れます。
だから、むかしはどの工房にも、
機械を直す専属の直し屋さんがいたそうです。
壊れたら、直し屋さんに頼む。
それが、むかしのやり方でした。

ところが、産業が衰退すると、
直し屋さんといった細かい仕事は、なくなっていきます。
家業を継いだ井上さん夫婦が工房を引き受けた20年ほど前には、
もう、直し屋さんはいませんでした。
むかしのやり方では、もう続けられない。
そこでふたりは、まだ働いている職人さんたちに直し方を聞いてまわり、
写真とメモに残して、自分たちの教科書をつくった。
いまでは、ほとんど自分たちで直せるそうです。
そして今日も、自分たちのやり方で、新しい帯を織っています。

むかしのやり方が続かなくなったら、新しいやり方で進むしかない。
誰かが新しいやり方を持ちこまなければ、
衰退していくだけだし、なにかを興すこともできません。

そもそも、桐生の機織りそのものが、新しいやり方でした。
桐生の白滝神社に、こんな言い伝えが残っています。
むかし、桐生の山あいの村から、
ひとりの若い男が都へ働きに出た。
仕事は、御所の掃除係です。
男はそこで、白滝姫という、身分の高い姫に恋をしてしまう。
姫は男をからかって、歌を詠みます。
男がすぐに見事な歌を返すと、姫は驚き、男を好きになった。
うわさは天皇の耳にも届き、
「姫をつれて、故郷へお帰り」と言われて、ふたりは村に帰ってきた。
姫は村のヒトに、かいこの育て方、糸のとり方、機の織り方を教えました。
この言い伝えがホントかどうか、その真偽は定かではありませんが、
都から来た誰かが、新しいやり方を伝えたのは、間違いないと思います。

新しいやり方を始めるのは、地元のヒトでもいいし、よそ者でもいい。
大事なのは、だれが始めるかではなく、
新しいことを始めて、それをやめないことです。

紫香邸も、同じだと思っています。
古い家を引き継いだのは、よそ者のボクタチです。
珈琲を淹れて、お菓子を焼くだけでなく、
芝居をして、庭をつくり、動画もつくる喫茶店!?
桐生のヒトからすれば、見たことのない、よくわからないやり方でしょう。
すぐに賛同してくれるヒトが現れるわけではありません。
それでも、続けることで、新しいことは始まるのです。
賛同してくれるヒトが現れるまで、やりつづける。
ボクたちもそういう覚悟が問われています。