代表が語る、MAMEHICOのこれから

カフエ マメヒコは、2005年に三軒茶屋、その後、渋谷にオープンしました。それから18年。東日本大震災、渋谷の再開発、コロナ禍を経て、渋谷のマメヒコは閉店し、2022年9月、メンバーシップ制のイベントカフェ「MAMEHICO」を銀座、神戸と二店同時にオープンしました。
あらゆるものを理性と理屈でコントロールしようとする社会に、「もっと自由に、面白可笑しく生きよう」というメッセージを、様々な活動を通じて発信してきたマメヒコ。コロナ禍を経たいまを、どう見ているのか、マメヒコ代表の井川が答えます。

コロナ禍を経て、マメヒコはどう変わるのか?

井川:MAMEHICOをオープン当初から、「面白可笑しい場所」であり続けることを目指してるのね。2023年になって、ようやく新しい時代の幕開けが来たなって感じてます。ここまで、あらゆる大事なことが、実は体裁で整えられていただけだったとバレてしまった、綻びが表にまで出てきてしまったわけだから、既存の仕組みが壊れるのは時間の問題だと思います。
そういうときだから、もっともっとMAMEHICOのやってきたこと、考えてきたこと、取り組んでいくことを、多くのヒトに伝えていかなくてはいけませんね。そして仲間を集めていかなくちゃいけない。

── いまのカフェを取り巻く状況を、どう感じていますか。

井川:ボクたちは生業ですから、ずっと続いてほしいと願ってますけど、カフェなんて形態はちょっと前まではなくって、小さな街の喫茶店だったわけでしょ。
つまり、ボクらがやってることは風俗であり、時代の影響をもろに被るところにいるわけです。どんなに努力したって、時代の流れには無力だよなと思う。
マメヒコを始めたころから比べても、圧倒的にカフェが乱立してるよね。1980年にドトールができて、それから、外資含めて大きな資本が参入する業界になっちゃった。
 そこが率先して、不景気な日本の少ないパイを取り合うためにしのぎを削ってるわけね。マメヒコだって取り巻く環境と無関係ではいられないわけです。
大手資本は、立地、値段、話題性、広報力なんかすごいでしょ。それと戦っても敵うわけないんでね。関わらないに限ります笑。
だけど、小さなカフェだって、大資本の店には無い魅力があるはずなんですね。経営してて、それがなんだかわからないと言うなら探すべきだし、無いよというなら作らなければダメでしょう。そして、自分たちの考えていること。魅力を地道に、自分たちの言葉でお客さんに伝えていくほかない。それが結果的には、一番大事ではないかと思います。

── コロナにより飲食店の人手不足が深刻といわれています。ついには閉店してしまう店もあるようです。マメヒコはどうしていますか。

井川:そもそも人手の問題はコロナの前からで、いや、スタッフが確保できないのは慢性的な問題でしょう。コロナでさらに逼迫した経営状態なわけだから、高待遇の求人募集をかけたりするのも無理。そもそも求人媒体に載せるのだって安くないわけで、スタッフの確保は、にっちもさっちもいかないんじゃないの。だから機械化したり、業態を転換したりしようっていう声もあるけど、機械化された店やサービスを簡易化した店に、果たしてお客は行きたいのかって問題は残る。
うちは、もう随分前から一般的な求人は諦めていて、一番いいのはお客さんの中から正社員になってもらうんです。そのほうがずっといい。求人募集で応募してきたヒトは、マメヒコって行ったこと無いけど働きたいです、ってヒトが来るでしょ。職場として、見に来てる。それだとなかなか続かない。
 でもお客さんのなかには、長いことお店に通ってくれて、ボクたちのことがとても好きなヒトたちがいるわけです。長いお客さんは、店の方も好きだからね。互いによく知ってる。
 カフェというのは、やることはいっぱいある。キッチンの外にもいっぱい仕事があります。まずそのなかから、簡単なお店のお手伝いをしてもらうんですよ。拘束せず、責任を問わないのが大事です。やれたらやってみてねと。するとみなさんほんとに熱心にやってくれます。
 やってみてわかったことは、店舗スタッフだけだと、感謝って無いわけね。少人数でこなして、疲れ果てて、だけど仕事なんだから出来て当たり前の世界。
だから出来てるとこより、出来てないところに目がいっちゃう。あいつのあすこが出来てない。
ところがお手伝いさんが入ると、店の中で互いに感謝し合うようになるのね。そりゃそうだよね、無給のお手伝いさんが、熱心にやってくれるんだから。
 店舗スタッフもお手伝いさんには、ありがとうございますって、当たり前に言うようになる。だからデザートや飲み物を振る舞ってあげたりするみたいね。するとお手伝いさんも「かえって足手まといだったのに、こんなことまでしてくれて、ありがとうございます。また手伝わせてください」ってなる。
 店の中で、ありがとう、ありがとうって言い合うのが、どうもいんだな。店なんていうのは結局のところ、人間がやってるんだからね。そういうのが店の雰囲気に出ると思うんだよ。

── コロナにより飲食店は、感染の波が収束しても客が戻ってこない、客離れが深刻です。戻ってきてる店、戻らない店の差が開いていると言われてますが、どう考えますか?

井川:うちも始めた頃は、お客さんにたくさん来てもらうにはどうすればいいかって考えていたわけね。でもそれって知らないお客さんの受けをどうやって狙うかってことなわけよ。
だけど、それは小さなお店では無理だなと。今考えれば当たり前のことだよね、でもそれは最初わからなかった。
それで匿名から実名、知らないお客さんから知っているお客さんのことを、中心に考えるようにしたんだよ。まず名前を知るところから始めようと。
MAMEHICOでメンバーシップ制としたのも、お客さんの名前を聞けることが一番大きいのね。カフェで「あの、お名前なんですか?」って普通聞けないわけ。は?なんですか?ってなる。美容室とか名前聞くのは普通でしょ。そんな風にできないかっていうのが最初。
飲食店がコロナ禍で離れたお客さんを戻すのは難しいと思うよ。商売としても八方ふさがりの状況に追い込まれてて当然じゃないの。客足が戻ってきているように見える店でも、実情は大変だと思う。
お客さんと親密な関係が築けるかどうか。そういうことなんじゃないのかな。

── あらゆる食材の価格が高騰しています。食材の原価や仕入れ価格を抑えながらも、料理の質などサービスは維持することが重要といわれてますが、どう考えますか。

井川:お店に利益を残そうとしたら、価格を上げるか、コストを下げるか。まぁ、どちらも行うんだけど、もう限界なんじゃないの。
 価格を上げても、お客さんていうのは店に落とすお金って、あんまり変わらないもんだよ。価格上げれば、品数減らしたり、利用頻度下げたりするわけでさ。
 お客さんのはなしだと、物価は上がってるけど、給与は据え置きだから財布の紐がかたいっていうよね。てことは、売上はコロナ前には戻らないんじゃないかと思う。仮に売上が戻ってるように見える店も、利益構造は以前と同じにはならないと思うよね。コロナのときに閉めてたときの負債も抱えたままだろうし。
 これは東京に限ったことかもしれないけど、そもそもコロナ禍でも家賃は大きく下がってない。となると、もはや利益は出ないんじゃないの?もはやこれまでと、閉店するのも仕方ないと思うよ。なんとか食材を安いものに変えるとか、なるべく気づかれないように量を減らすとか。涙ぐましい努力が、どこまで実を結ぶかね。
 うちもそれは同じだけど、メンバーシップ制になったことと、イベントの売上が増えたことで、食材のロスが大きく減らせたのは助かってる。メンバーさんには、食べたいメニューはなるべく予約してから来てねって言えるし。たくさん作っては捨てるっていうのは、ほんとに無駄な経費だからね。

カフェが「孤」の受け皿に

── 戦後、都市化やグローバル化が進み、終身雇用も崩れ、家庭や地域も崩壊しています。にも関わらず、その受け皿が無いと言われていますが、どう考えますか。
 地域の農業の担い手を、工業化を進めるために都市に集め、人口が集中し、少子化と不景気が直撃してるんだから、こうなっても仕方ないでしょう。

 日本の政治や統制に課題、問題があったのは当然として、それを良くしないとダメだと思います。けど良くなる気配は、まだまだ無い。政治が悪くても、ヒトは強かに生きていくしか無いとボクは思います。
 ホンネもウソも混ぜながら、のらりくらり、面白可笑しく生きていければいい。戦時下だとしても、笑いっていうのはあったわけで、世を憂いて深刻な顔をすれば、誰かが助けてくれるってわけでもない。ヒトは思ってるよりも親切じゃないし、ヒトは思ってるよりも意地悪じゃない。
 時代が暗いので、どこにも所属している気がしない、孤独を感じてるってヒトは確かに多いと思いますよ。
 MAMEHICOはじめ、街の小さなカフェがその受け皿になれる可能性はあると思う。居酒屋と違い、朝から夜まで開いていて、老若男女が集まれるし、文化的な活動もできる。
 ボクたちも、その一端を担いたいと考えているけど、それにはMAMEHICOの価値観を理解してもらうのが大事だと思ってます。
ボクたちのMAMEHICOは「リアリティ」をとても大切にしたいと始めたんです。
 食品と料理の研究家である磯部晶策さんのご著書に『食品を見わける』という本がありまして、その中に「良い食品とは」というのがある。

1.安全で、安心して食べられること。
食品添加物について考えるとともに、食品衛生の基本から安全を追求する。
2.ごまかしのないこと。
偽和、不当表示にとどまらず、一切のごまかしを排する。
3.味の良いこと。
化学調味料や、表示上で「天然調味料」と呼ばれるものなどによる安易な味付けに依存せず、原材料と技術の調和による美味を生み出す。
4.品質に応じた妥当な価格。
どんなに良くても品質に比較して不当に高い価格は失格と考える。

 たとえば、これを守ってやってみたんですね。


 お店で使っている調味料や食材は、醬油、味噌、みりん、酒、米油、オリーブオイル、バター、生クリーム、塩、砂糖、小麦粉、お米。これら、ひとつずつ、選んで味見して、ちゃんとしたものを使うようにしました。味噌は自分たちで北海道にハタケを作り、無農薬で大豆を育て、米麹も自分たちで発酵させ、それで作ったりしました。そこまでとことん「リアリティ」を追求したかった。
 珈琲豆も茶葉も、鮮度の良いものしか使わないと決め、野菜もスーパーには流通しない地場のものしか使わない。品質の良いものを使い、手間暇かけて店内で作ってる。椅子やテーブル、棚や扉は、広葉樹の無垢材を使った家具しか使わない。店内に活けるお花は、季節に応じて生花を用意する。
 掃除は店内の隅々まで、ランプシェードの上とか、お客さんからは見えないところ、たとえば冷蔵庫の中とか、引き出しの中、トイレの掃除道具入れに至るまで、整理整頓を徹底してやる。それを心がけてやりました。
 つまり、面白可笑しくやりながらリアリティを追求していくっていうのが、マメヒコの価値観なんですね。
 こういうことをいいなと思うお客さんに支持してもらわなくちゃいけない。そして、運営の面でも積極的に手伝ってもらいたいとも思ってます。
 そのために色んなイベントを通じて仲間を集める必要がある。
イベントは専門的になりすぎず、興味があるもの、多岐に渡ってるほうがいい。
 北海道に畑を借りて、店で使う黒豆やかぼちゃを栽培する「ハタケマメヒコ」もそうだし、マメヒコが主催する演劇や音楽会もそうです。映画製作なんかもやったり、本を作ったりしてるのもそうです。
 どれも仲間集めのためにやってきたことだけど、傍から見れば何をやっているのかよくわからない店、ということになるかもしれないね。
 でもそれでいい。どうも、お金目的にやっている感じもしない。かと言ってなかなか潰れもしないし、余裕もありそうだ。コロナのさなかでも、新店を銀座と神戸に同時にオープンしてる。
 それはボクらの店にはたくさんの仲間がいるからです。みんな自分の店だと感じて、そのヒトの身の丈に合わせて自由にやってる。
 ボクが好きな海外のカフェは、みなそういう店です。変わった店主がいて、店に集まるヒト達は勝手に店をカスタマイズして、誰が店員なのかお客なのかもわからない。
 日本でも新しい時代になれば、そういうカフェがもっともっと必要とされるはずだとボクは確信してる。なぜなら、マメヒコを自然に任せていたら今のスタイルになったから。ボクが誘導したんではないんです。つまり、時代はそういう潮流になるってことだと思う。

 

── 他分野との連携も始まっていると聞きました。どういう考えで進めていますか。 

 ボクのまわりにいるヒトたちは東京近郊育ちが多いからか、ドライなのに温かいところがある。ヒトの距離感を測りながら付き合うことに慣れている。そして自分たちは社会の一員であるという感覚を持って、出来ることなら社会の役に立ちたいと思ってる。
 それと所有っていう概念が薄くて、個々に自立していて、自分の持っているものをシェアしたり、シェアされたりを当たり前だと考えている。こういう考え方が、これからの日本にも必要とされてるんだと思います。
 医療や福祉をお仕事にしている方もお客さんとしてたくさん来ているわけですよ。その分野も、閉塞感が漂っていて、どうもこのやりかたでいいのかなと思っているヒトは大勢います。
 それは教育もそう。立場があるから現場では言えないけれど、先生たちがこのままではやってらんないという声も聞きます。地方再生なんかもね。コミュニティがなかなか作れない。作ってもうまく機能しない。そういうのも聞くんですね。
 昔ながらの所有っていう感覚で、ヒトを使ったり、場所に固執したり、お金に執着したりではうまくいかない。人間関係も、お酒飲んでべったり付き合うっていうのは苦手ってヒトもいる。
 だからって、スマホだけ使って、生身の人間関係を軽視したってそれは何も生まれないと思うよ。
 MAMEHICOに魅力を感じるヒトの中には、そういう価値観が似ているヒトが、もしくはこんな感覚で集まってるヒト達がいるんだと驚くヒトがいて、タイミングが合えば一緒になにかやりましょうって言ってます。
 実際に、色々と動き出してることがあって、傍から見ると、なんでカフェがそんなことしてるの!?って思うかもしれないね。なんの不思議もなくて、結局、最後は人間なんだから、みんなが必要としてるもの、そのイメージが共有できたなら、あとは黙ってたってヒトは勝手に動き出す。そういうものだと思うよ。

MAMEHICO代表 井川 啓央(いかわ よしひろ)
1973 年札幌生まれ。日大芸術学部中退。株式会社セレンディピティ代表取締役社長。2005 年 7 月「カフエ マメヒコ」を三軒茶屋に開店。2008 年、影山知明氏の依頼にて、西国分寺に「クルミドコーヒー」を開店。2017 年より、シャンソニエ、エトワール★ヨシノとして、作詞、作曲を精力的に行う、2021年からは、連続ドラマ「ノッテビアンカ」を、脚本、撮影や録音、演出、監督、編集まで総合的に手掛け、自身のYouTubeチャンネルにて配信中。2022年9月「MAMEHICO東京・銀座」、「MAMEHICO神戸・御影」開店。https://ikawayoshihiro.com/

関連記事

RELATED POSTS