私らしく、ちくちくと
インド・ベンガル地方発祥の、刺し子に似た手仕事「カンタ」。
最近はテレビで取り上げられたり、本が出版されたりして、じわじわと認知度が高まっているように感じますが、それでもまだまだマイナーな手仕事だと思います。
そんなカンタに私がどっぷりハマるきっかけとなったのは、雑誌『暮らしの手帖』に掲載された、望月真理さんの特集でした。
それまでの私は、趣味でチクチク刺繍をしたり、趣味が高じてなんとなーく作品をハンドメイドマルシェで販売したりしていました。
そんなとき、『暮らしの手帖』で真理さんの特集を見て、「コレだ!コレがやりたいっ!」と強く感じたのです。
憧れの人が、先生になった
とはいえ、そのときの真理さんは、あくまでも「雑誌の中の人」。
しかも当時すでに90歳とご高齢だったので、実際にお会いすることはないんだろうな…と思っていました。
ところが、それから数年後。
『カンタ刺繍』という本の宣伝が目に飛び込んできました。
「おおお、これはいつぞやの!」と大興奮して出版社のサイトにアクセスしてみると、なんと本の発売を記念して、真理さんのお話会があるというではありませんか。
「もう、これは絶対に行く!」と張り切って申し込み、憧れの望月真理さんから直接カンタのお話を聞けることになったのです。

お話会では、カンタってこういうもの、という話にとどまらず、真理さんのこれまでの生き方や考え方を聞くことができました。
「あーもう、カンタも真理さんも、素敵すぎる。絶対絶対カンタやりたい!」と、ドキドキが止まりませんでした。
そして、お話会の後のお茶会で、なんと真理さんから、「カンタやりたいならいらっしゃいよ、教えてあげる」と声をかけていただいたのです。
群馬から真理さんのご自宅まではちょっと遠いけれど、「行きます!」と即答したのはいうまでもありません。
好きなように刺せばいい
それから、真理さんが私のカンタ師匠・望月真理先生となり、私のカンタライフが始まりました。
布や糸の選び方、布の重ね方といったカンタの基本を教えてもらったのはもちろんですが、私が初めて刺したカンタを見てもらったときのことが、今でも忘れられません。

「縫い目が詰まりすぎてて息苦しくて窮屈。あなた、最初っからうまく見せようと思ったでしょう」そう言われたのです。
衝撃でした。それまでの私は、「お手本通りに上手く刺すのが正解」だと思い込んでいました。
でも、カンタには正解がない。
やりたいように刺せばいいんだ!
そう知ってから、さらに勢いづいて、どんどんカンタを縫いました。

道端の雑草、娘の教科書に載っていたグラフ、さらにはコロナウイルスまで、目にするものすべてがカンタの図案になりました。
ただのなみ縫いなのに、いろんな模様ができる。
布の裏も表も、すべてがポコポコ、うねうね。
良くも悪くも、自分では思ってもみなかった仕上がりになることが、とにかく楽しかったのです。
これが、あなたのカンタ
カンタを習い始めて何枚目かに縫った「木と鳥のカンタ」を先生に見てもらったときのことです。
「この木の幹!あなた、面白いことやるわねぇ。木の周りの赤い花とか鳥とかいらないから、あなたはこの感じでやりなさい。これがあなたのカンタ!」と言われました。
(え、鳥とかも刺したいじゃん)と思いつつも、とてもうれしかったのを覚えています。
行き当たりばったりに、刺したい方向へ勢い任せで刺していったカンタを認めてもらえた。
先生は褒めたつもりじゃなかったのかもしれないけれど、私にとっては、それがとてもうれしいことでした。
カンタって、本当にありのままでいいんだ。
そんな安心感のようなものが、体の中に広がっていきました。

その後、赤い花や鳥をとっぱらって、木だけを刺した「キモカワ(気持ち悪いけどかわいい)の木のカンタ」を刺しました。
残念ながら、それが完成したときには、先生はもうこの世にはいませんでした。
それでも、先生からカンタを習い始めてから5年。
私は相変わらず、毎日ちくちくちくちくカンタを縫い続けています。
好きなように、今日も縫う
かつて「nanohanaya」として小物を販売していたときに使っていた横向きの動物の図案を使った「横向き動物のおくるみカンタ」。
昼間の月って、思いのほかきれいだな、と感じて縫い始めた「白い丸のカンタ」。
群馬県庁の展望フロアから山を眺めて図案にした「山のカンタマフラー」。
私が着て、娘も着た思い出深い着物の柄をモチーフにした「鶴のカンタ」。
ここには載せきれないくらい、たくさんのカンタを縫ってきました。
やたらと目が揃ってきれいに縫える日もあれば、ガチャガチャと落ち着きなく縫っている日もあります。
でも、とにかくちくちく縫い進めていけば、いつのまにか「わぁ、おもしろい」という一枚ができあがります。

先生が亡くなってからも、私は相変わらず毎日カンタを縫っています。
先生に教えてもらったのは、カンタの縫い方だけではなく、「自分の好きなようにやっていい」ということだったのだと思います。
「あなた、カンタ楽しい?」
先生にそう聞かれたら、5年経った今でも、もちろん答えは同じです。
「カンタ、楽しい!」
そして今日も、私はちくちくと針を動かしています。




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