03

思い出の喫茶店

今回の面白RADIOのテーマは「思い出の喫茶店」。出演者それぞれが心に残る店を語るのを聴きながら、私も自分の思い出をたどっていました。

喫茶店には、ただコーヒーを飲むだけではない、不思議な時間があります。そこで交わした会話や、何気なく眺めていた景色、店に流れる空気。その一つひとつが重なって、いつしかその場所は「思い出の喫茶店」になっていくのかもしれません。

思い出の喫茶店は、人がつくる

「思い出の喫茶店」と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、京都・三条のイノダコーヒーでした。学生の頃、初めて訪れたその店で、私の目を奪われたのは楕円形のカウンターです。深めのカップに注がれたコーヒーには、最初からミルクと砂糖が入っていて、職人さんが静かにコーヒーを淹れる姿を眺める時間が好きでした。

当時は珈琲そのものが好きなのだと思っていました。でも今振り返ると、惹かれていたのは、あのカウンター越しに流れる空気や、職人さんの所作だったように思います。珈琲を飲むというより、その時間を味わっていたのでしょう。

そういえば、俳優の高倉健さんもイノダコーヒー三条店のカウンターに通われていたそうです。あの静かな空間で、どんな時間を過ごされていたのだろうと思うと、なんだかその姿が目に浮かぶようです。「不器用ですから…」なんて、あのカウンターから聞こえてきそうですね。

「コーヒーって嗜好品なんですよ」

ラジオの中では、「コーヒーは嗜好品」という話がありました。世界にはミルクや砂糖だけでなく、チョコレートやスパイス、お酒を加えて楽しむ文化もあるそうです。飲み方に正解はなく、自分がおいしいと思えることが一番大切なのだと。

その話を聞いて、御影MAMEHICOでの出来事を思い出しました。物販コーナーMINIに立ち始めた頃、お客様から「ミルクに合うコーヒー豆はどれですか」と尋ねられたことがあります。私は答えられず、店長のシゲさんに助けを求めました。

シゲさんはすぐに豆を勧めるのではなく、「普段はどんなコーヒーを飲まれますか」と、お客様の好みを尋ねました。そこから自然と会話が始まり、最後に選ばれたのは深煎りの豆でした。

「ありがとう。すごくいい買い物ができました。」

お客様を見送ったあと、私は「ミルクに合う豆を探していたのに、深煎りを選ばれるとは思いませんでした」と話しました。するとシゲさんは、にっこり笑ってこう言いました。「コーヒーって嗜好品なんですよ。」私はそのとき、コーヒーの知識があることよりも、その人がどんな時間に、どんな気持ちでコーヒーを飲んでいるのかを知ることのほうが大切なのかもしれない、と感じました。

同じ豆でも、ブラックで飲みたい人もいれば、ミルクを入れて楽しみたい人もいる。大切なのは「正しい飲み方」ではなく、その人にとって心地よい一杯に出会うことなのだと思います。

「ほどほどに流行る」ということ

もう一つ印象に残ったのは、京都で「地元の人が地元の店に入れなくなっている」という話です。私にも、お気に入りだった大阪のお蕎麦屋さんがあります。観光客でにぎわうようになり、お店も予約制にするなど工夫をされていましたが、以前のようにゆっくり過ごせなくなり、自然と足が遠のいてしまいました。

喫茶店は、なくても生きていけます。でも、あれば暮らしが少し豊かになる場所です。だからこそ、あさのんさんが話されていた「ほどほどに流行っている状態が大事」という言葉が心に残りました。

お店を続けていくということは、本当に難しいことなのだと思います。たくさんのお客様に来てもらうことも大切。でも、何年も通ってくれる人が安心して過ごせる場所であり続けることも、同じくらい大切なのだと思います。

思い出になる店

そう考えると、店というものは完成品ではなく、時間をかけて育っていくものなのかもしれません。指揮者・小澤征爾さんは、「音楽は楽譜を書いただけでは完成しない。演奏して初めて完成する」と話されていました。

喫茶店も、きっと同じなのではないでしょうか。お店をつくっただけでは完成しません。そこへ通う人がいて、店の人と言葉を交わし、何気ない時間を積み重ねる。その積み重ねが、誰かにとっての「思い出の喫茶店」をつくっていくのだと思います。今回の面白RADIOを聴きながら、そんなことをあらためて考えました。