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割に合わない仕事を楽しめるか
三軒茶屋のカフエ マメヒコ。あの店の厨房を設計したのが、インテリアデザイナーの稲飯さんです。20年前のことです。徳島の出で、ふだんは関西弁のひとです。
店ができてしまえば、ふつう、デザイナーさんとの縁はそこで切れます。ところが稲飯さんは、それから20年、お客として通い続けてくれています。
インタビューにあたって、何か一つ、思い出の品を持ってきてください、とお願いしました。
今日はあれですよ。もう何を持ってきていいかわかんないから。とりあえずMAMEHICOの図面を持ってきました。2005年かな、確か。図面ケースに入ってたのも、そのまま持ってきたんです。
これ、厨房リストですね。キッチン任されたんで、主にキッチンのところがそうです。レイアウトして、あとこの辺の、ガラスのところのデザイン決めたりして。
これ、三角スケールっていうんですけどね。図面は全体の1/50で書いてます。そうすると、この目盛りで測ると──今これ2920だから、だいたい2メーター92センチ。1200って書いてあっても、図面だと1メーター20はこんなちっちゃいでしょ。だから1/50で書いてますよってなれば、ここで1メーター20って読める。
大雑把じゃできない仕事です。なんとなくじゃできない。

MAMEHICOは、井川さんから連絡もらって。最初はここじゃなくて、別のところで物件見に行ったんですよ。昭和女子大の近く。あっちの話が流れちゃって、その次にいまのココの物件が出て、こっちに決まりました。
ここのメインのデザインは、のるすくの北田さんがやったんですよね。僕は、厨房と、外のテラスをやりました。まあでも、大体、井川さんが仕切ってたから。今もそうでしょ?MAMEHICOは、それがいいんだと思う。井川さんも、いろんな意見聞きながら、自分だったらこういうアウトプットにしようとか考えてる。色んな意見を取り入れるのが多分好きなんじゃないかなと思います。
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ここのトイレの扉、僕じゃなくて北田さんのアイデアで、テーブルと相似型なんですよね。ウォールナットでできてます。
ひとつの厚い板をスライスして、パタって。ブックマッチで繋いでる。だから左右の目が揃ってるんですよ。全く違うものを寄せ集めて、真ん中で繋いでるんじゃない。大きい木を半分にスライスしてやってるから、同じ目がこう揃ってるんですよ。本当はめちゃめちゃ分厚い。いまはもう手に入りにくいから。よく見つけてきたなと思って。
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僕らの仕事は箱を作るまでだから。その後の店の雰囲気作りは、もうやっぱりそのオーナーさん次第になっちゃいます。それで全然変わりますよ。引き渡しの状態は、まだ何も使われてないから、なんかこう、あっさりしてるっていうか。
自分が関わって出来上がってからも、定期的に行ってるとこはありますよ。でも、MAMEHICOが一番多いかもしれない。僕が自分で本読みに来てるだけですけどね。
MAMEHICOは店舗ごとに全然雰囲気が違うけど、似てる空気感がありますね。それはやっぱり井川イズムじゃないですか。どこも、本物の木をふんだんに使ってるとかね。なんていうか、根っこが変わらないから、似て見えるんじゃないかな。

職業名は、インテリアデザイナーです。もう30年ぐらいやってます。
子供の頃から、作ったりとか、絵描いたりとかっていうのは好きでしたね。粘土でなんか作ったりとか。図工好きでしたね。彫刻刀でなんか彫ったりとかね。
でもね、子供の頃の「好き」っていうのは、褒められて、あ、これやると褒められるんだ、っていうのも大きいかもしれない。下手でもいいんですよ。上手だねって褒めてあげるのが大事。ダメダメ言われてたら、途中でやめちゃったかもしれないね。ピアノが好きだったのに、教室の先生が厳しくてやめちゃう、みたいなことってあるでしょ。
僕は覚えてないけど、褒められたのかもしれない。だから好きなままで、今も続いてるっていうね。
好きにやらせてもらえて、絵画教室みたいなところに行かされなかったのが良かったのかなとも思ったり。表現だからね。空は青に塗りましょうみたいなこと言われても、自分が赤に見えたら、赤に塗ってもいいって世界でしょ。自分は赤く見えたんだったら赤く塗ればいい。なんで青く塗らなきゃいけないんだろう。
そうやって、最初尖ってたのが、みんな同じような感じになってくる。で、途中でつまんなくてやめちゃう。
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最初はね、僕、プロダクトデザインって言って、製品のデザインをやってたんですよ。たとえばカメラの、じゃあ次のリニューアルでカメラをデザインしますみたいなね。デザインして、設計して、金型っていうのを彫ったりとか、いろいろプロセスがあるんですけど、デザインから製品化まで、結構何年もかかるんですよ。
で、最初の頃にこういう風にしたいっていう尖ったデザインも、だんだんいろんなひとの意見を経ていくと、なんかつまんないもんになっちゃうんだよね。一般的なものになっちゃうか。それはなんか、あんまりつまんないなと思ってね。それでインテリアデザインだったら面白いかな、みたいな軽い気持ちで。
つまんないから、こっち行こうかなって。もう流れに身を任せて。そっちだったら、もうちょっと好きにデザインできるかなとか思って。
もともと作るのは好きだから、家具の職人みたいなのもいいかなとか思ったりもしてたんですけど、なんとなくそのまま今に至るっていう感じですね。
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インテリアデザイナーの事務所に入った頃は、20代半ば。経験も何もないし。図面は描けるけど、プロダクトとインテリアは違う。歯医者さんと眼科みたいに違います。同じお医者さんだけど、カルテは書けるけど、症状を見たりするのは、またノウハウが違うっていう。会社入ってからは、やりながら覚えました。ついた先輩も、もう半年ぐらいで辞めちゃったから。何も知らないペーぺーが何でも任されてやることになって。いろんな図面見たりしながらやってましたね。
まあ、なんとかなりましたね。その頃どう思ってたかは、ちょっと忘れちゃったけど。楽しくなかったら、続かないから、楽しかったんじゃないかな。あんまりストレスないですね。お客さんに恵まれてるっていうのもあるしね。
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僕はアーティストじゃありません。お金出してもらって、自分が好きな店を作るという意識は全く無いです。お客さんがやりたいお店を、一緒に考えてあげるっていうプロです。たとえば自分の音楽をやりたいんだっていうんだったら、自分で作って歌って、配信しちゃえばいい。僕の仕事なら自分でデザインした店を自分で作って、やればいい。芸能事務所からオーダーがあって、このアイドルに歌を作ってってオーダーされる。プロの作曲家とか作詞家に近いかもしれませんね。
私は、インテリアデザイナーよ、私のデザインなのよ、っていうひとは、僕とは違うかな。
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みんな、インテリアデザインなんて聞くと、なんかカーテンがどうとか壁の色をどうするとか。見た目を整える仕事って思うものかもしれないですけど、一番大事なのは、平面図。要は間取りです。もう店の間取りで全然印象が変わる。
スタッフやお客さんの動線、スタッフが使いやすいかどうかとかね。
僕はいつも見るんですよ。お客さんやスタッフから見たら、どういう風に店が見えるのかなって。入り口が入ったらこういう景色で店が見えるなとか。駅前の道から店の中はこう見えるなとか。こう来たら1回ここにぶつかるから、アプローチ取って、べつから入るようにしようかなとか。そういうのをとても考えます。

お客さんからの要望はね、あんまり具体的なことは少ないです。何席ぐらい欲しいとか、メインは厨房だから、キッチンに入れたい厨房器具はこれこれとか、あとカウンターが欲しいかいらないかとかね。
あとは、もうこっちからほぼ提案ですね。
たとえばこういうこともあります。ほら、おしゃべりが得意じゃないようなひとがお店を始める場合。オープンキッチンなんかにしちゃったりすると、たぶんずっとしゃべるのはきついだろうなって。半クローズのオープンキッチンを進めたりして。やっぱり、ひとを見ながら作りますね。
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墨出しって言って、図面を、現場で実寸で線を引いてく作業があるんですよ。たとえば壁が立つところには、簡易でも壁立てたり、厨房はここですよっていうのを作ったりとかして。お客さんに実際に来てもらって。墨出し確認会っていうのを1回やります。
建築はミリ単位、10cmって100mmなんですよ。やっぱりお客さんに、ここは100です、600ですとか言ったって、イメージが伝わんない。だから現場で、実際の幅を見てもらって。ここの厨房、通路狭くないですかねとか、カウンターの奥行きは狭くないですかとか。入り口から入って、こうやってこう見えるんですよ、とかっていうのを説明します。
やっぱり、やった方がいいですよ。出来上がってから気づいて修正するよりは。
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店舗の内装設計と工事ってね、駆け足です。住宅とちがって、そんなに長くない。お客さんは家賃も発生してるし、早くオープンしたいですからね。
だから判断は、なるべくすぐ決めるようにしてます。かつて大きい会社から来たひとと仕事したこともあるんですけど、確認作業は上手なんだけど、確認だらけで、なかなか工事が進まない。パパッと決めちゃえばすぐ終わる話なんだけどね。誰もなにも決めないのね。
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そりゃね、変なお客さんとはできれば絡みたくないですね。最初の打ち合わせで、このひとちょっとどうかなと思ったら、もうすぐ断っちゃうんで。最初の印象で分かる。それは僕が判断する。後で揉めるとかわかるんで。
一軒ずつ頼まれて受けて作る、オーダーメイドなんですよね。できたものを買ってくださいじゃないわけです。だから、やっぱりフィーリングが合わないとどうしてもね。話が進まなくなってくる。無理して作ったとしても、やっぱり出来上がりのイメージが違うとかね、色々と揉めごとが出てきます。
新規は年に1件か2件ぐらいかな。ほとんどはリピーターか紹介のひとです。

やっぱりね、店舗デザインですから、作ったお店はやっぱり、繁盛してほしいですよ。デザインが良くてかっこいい店になったけど、ぜんぜん流行らず儲かんないというんじゃね。やっぱ儲けさせてあげたいなって思いますよ。店という空間は、事業の道具ですからね。そういう箱を僕は作りたいです。
まあでもね、もともと飲食店っていうのは、割に合わないと思いますよ。インテリアデザインもそうです。どちらも割に合わない仕事ですね。でも、割に合わないことを楽しめるひとじゃないと、続かないかもしれないね。
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これから先のこと?何も考えてないですけど。流れに身を任せて。もう今までもずっと流れに身を任せてるだけ。運がいいんですよ。
たとえば電車に一本乗り遅れても、残念とは思わない。あれに乗ってたら事故に遭ってたかもしれないな、乗れなくてラッキー、だったって思うタイプです。
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MAMEHICOの図面を20年、手もとに残しているひとが、いまもその店に、本を読みに来ている。
それだけで稲飯さんがどういうひとなのか、説明しなくても伝わる気がします。

(M=Hico編集部)



わあ〜!いないさん! 東京や桐生のお店で何度もお会いしてますが、いつも自然に何気ない話しをする感じで、いつかお仕事のことを聞きたいと思っていました。M=Hico編集部のみなさま、ありがとうございます!