こんにちは。MAMEHICO東京スタッフの原幸子です。
普段は東京と桐生・紫香邸を行き来しながら働いています。
私は、三年前、YouTube連続ドラマ『ノッテビアンカ』で九重マイコ役を演じました。
Vol.4 Act.3では、幼いマサシと兄を残して姿を消した母親が奈良にいることが分かり、マサシは母親を探しに奈良へ向かいます。
マイコも、わずかな手がかりを頼りに、マサシのあとを追って奈良へ向かいます。
この回で私が特に印象に残っているのは、マサシとマイコが古い学校の校舎で交わす会話です。
「何者かになろうとして、みんな努力している。
やりたいことがあっても我慢している。
何者かになれば、すべてはうまくいく、報われると信じている。」
このセリフは、当時の私自身が抱えていた悩みを井川さんがマサシのセリフにして、私に向けたものです。
私は、幼い頃から音楽教育を受け音大に行き、プロのピアニストを目指してきました。
遊びたい気持ちを抑え、すべての時間を練習に捧げる。その努力は、いつか必ず報われる。
その言葉を信じて、ピアノの前から片時も離れずに生きてきたのでした。
おかげでピアニストになれたものの、実際に活動しても、なぜか心は満たされませんでした。
周囲に相談するも「それはまだまだ努力が足りないからだよ」とか、「こんなにピアノが弾けるのに、贅沢な悩みだね」とか。
そうなのかなと思いながら悶々と過ごしていたとき、MAMEHICOと井川さんに出会いました。かれこれ10年前のことです。
そのあと紆余曲折あって、思い切ってピアニストをやめる決意をした私はMAMEHICOのスタッフに志願しました。
「MAMEHICOは天から与えられた幸運に違いない、ここに賭けよう」。
なんとか仲間に入れてもらい働き始めましたが、すぐに大きな壁にぶつかりました。
小さい頃から、上手に弾けば褒められ、コンクールで賞を取れば喜ばれる。
そんな環境で育った私は、いつしか「結果が出なければ自分には価値がない」と思い込む癖が染み付いていました。
「結果を出さなければ存在する価値がない」という極端な価値観を、疑うことなく大人になってしまったのです。
なのにMAMEHICOではまったく役に立てない、むしろ失敗ばかりしてしまう。
それで八方塞がりの思いを抱え、何度か逃げ出したり体調不良になったりして、周囲も自分自身も疲れ果てていました。
逃げ出すたび、「音楽は好きでやっていたものではなかったんだ」、「何かを成し遂げなければ認められないという恐怖に駆られて、やり続けていただけだったんだ」——そのことに気づいて、絶望したりしました。
そんな状況にいた私を、恐らく見かねたのでしょう、井川さんは私を「ノッテビアンカ」に誘ってくれたのです。
「ノッテビアンカ」のスタッフもキャストも、コロナ禍とはいえみんな手弁当です。
そのチームで一年間も、一緒にものを作り続ける、そんな経験はもちろん初めてです。
プロの世界のように、上手いとか下手だとか、お金の多寡とか一切関係ないなかでのものづくりです。
暇な大人が、ただ遊びでドラマを作っている位にしか思っていなかった私は、長い連続ドラマ作りに参加して、ようやく気づきました。
大切なのは、人との信頼を小さく積み上げることなんだと。
信頼を築くためには、いつでも自分が楽しんで参加することが必要で、人の顔色が気になったり、人と自分を比べたり、それで惨めな思いをして落ち込んで暗い顔をしては、ちっとも信頼は築けないんだとわかったのです。
自分は、当たり前のことがちっともわかっていない、わかったとしてもできないんだと、腑に落ちたのです。
いま『ノッテビアンカ』を見かえすと、あぁ三年が経ったんだなと思います。
今の私は、あの頃とは比べ物にならないくらい、明るく前向きな性格になりました。
もともと持っていた性格に戻ったという気がします。
ドラマの経験だけじゃなく、桐生と東京の往復をしたり、いろんな経験を積めたからです。
そして自分を保つことの大切さと難しさは、さらに一層、身に沁みてわかるのです。

連続ドラマ「ノッテビアンカ」
全8話(vol.1〜8 Act.1,2,3/24回)
vol.4 Secret Act.3 こちらから
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