こんにちは。MAMEHICOの坂本智佳子です。
年明けからM=HicoでYouTube連続ドラマ『ノッテビアンカ』を紹介しています。
ドラマでは制作スタッフ、役者としては、宝田クミ役を演じました。
井川さんの脚本は、常に状況に合わせて書きされていきます。
演じる人や、その場にあるもの、起きた出来事を汲み取りながら、物語を紡いでいくのです。
この回で、私が一番好きなマッチ箱のシーンもそうでした。
劇中、セツオはマッチ箱を手に取ってこう語ります。
「好きだったお店がまたひとつ、またひとつって無くなってくんだから、そりゃ母さんも辛かったろうと思うよ。マッチ箱はさ、好きだったお店の棺ってわけだよ」
これは、もともと決まっていた脚本に小道具を当てはめたのではなく、その場にあったものから物語が生まれていったものです。
あるロケ先で、スタッフのひとりから「こんなのがあるんですけど」と差し出されたのは、彼女のお母様が若い頃に集めていた古いマッチ箱でした。
丁寧に保管されていたそれらは驚くほど状態がよく、一目見ただけで、それを大切に保管されてきたご主人の几帳面で繊細な人柄が伝わってきました。
そして生前のお母様の、美しいものが好き、楽しいことが好きという人柄も、そこにはにじんでいたのです。
それを見た井川さんは、とても感激して「ぜひノッテビアンカに取り入れたい」と言い、その場で脚本に書き加えられました。
こうして冒頭の、マッチ箱を机いっぱいに広げる印象的なシーンが生まれたのです。
目の前の現実に感応し、そこに物語を編み込んでいく。
そうした柔軟さと感受性こそが井川作品の持ち味であり、ノッテビアンカという作品の静かな温度をつくっているのだと思います。
銀座、渋谷、新宿……マッチ箱に刷られた店名を追っていくと、その多くが、いまではもう存在していません。
けれど手のひらに収まる小さな箱には、かつてのお店の空気や、そこに流れていた時間が、そっと閉じ込められているように感じられます。
あの撮影から、3年が経ちました。
ノッテビアンカには、いまはなきマメヒコ公園通り店が映っています。
画面のなかに写っているのは建物や人だけではありません。
そこに積み重ねられた時間や思い出、体温や記憶までもが、静かに滲み込んでいるように感じられます。
MAMEHICOが何を大切にしてきたのか、井川さんがどんな人生を歩んできたのかが、静かに伝わってくるのです。

連続ドラマ「ノッテビアンカ」
全8話(vol.1〜8 Act.1,2,3/24回)
vol.4 Secret Act.2 こちらから
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