01

最後は感覚がすべて

飲み比べ:レイコとアイコ

みさき
これはどっちから飲んだほうがいい?
トモ
レイコのほうがいいんじゃないかな。
みさき
うん、わかった。じゃ飲んでみるね。

みさき、レイコを飲む。

みさき
これは無糖のブラックコーヒーというかんじ、苦味が強いね。
苦味と酸味がダイレクトにくる。ではつづけて。

みさき、アイコを飲む。

みさき
あーー。んーー。

みさき、もうひとくちアイコを飲む。

トモ
どう?ほんのちょっとだけどお砂糖入ってるけど。
みさき
あーー。んー。なるほど。
お砂糖ってどれくらい入ってるの?
トモ
ほんのちょっとだけだよ。一杯200ccに対して3gくらい。
液量に対して1.5%ぐらいだね。
みさき
そんな少しでもこんなに違うんだって感じ。
トモ
でしょ、わかる?違うでしょ。

と、はしゃいでみせる。

みさき
苦味がまろやかになるね。
トモ
そう。
みさき
これ、甘みが入ってるっていうのは、言われないとわかんないかも。
トモ
そうでしょ。
微糖って言うと、甘いコーヒーをイメージしちゃうんだけど、
気づかない人もいるくらい(笑)
みさき
だろうね。
トモ
前に微糖って頼まれて、これ出したら、
「すいません、無糖じゃなくて微糖なんですけど」って
突っ返されたことあるくらい。
みさき
それはすごい。
トモ
そう、微糖っていうより、超超微糖。
みさき
きちんと測って入れてるの?それとも目分量?
トモ
ちゃんと測ってるよ。適当だと怒られる(笑)
みさき
甘くならないギリギリを狙ってるのね。
トモ
うんそう。
みさき
なんか、ともすると豆の甘さなのかなって。
トモ
勘違いするよね。
みさき
これはしてもおかしくない甘さ。
トモ
でもね、お砂糖を入れるのって味じゃ無いんだよね。
コーヒーの香りのために入れてるの。
みさき
香り?
トモ
そう。苦味がお砂糖でマイルドになるでしょ。
すると、香りが変わるのね。
トモ
レイコは、香りよりさきに、苦味がこない?
みさき
たしかに!

みさき、アイコの方を飲み干す。

みさき
抽出の方法は同じなんでしょ?
トモ
そう。ただほんの少しお砂糖が入ってるか入ってないかだけで。
みさき
こんなに違う?
トモ
今回、アイスコーヒー選挙やったでしょ。
みさき
やってたよね。
トモ
あれでレイコしか飲まなかった人が、アイコにずいぶんと乗り変えた。私たちは「乗り換えアイコ」って呼んでるんだけど。
みさき
「肩乗りインコ」みたい(笑)
トモ
ハハハ(笑)
みさき
どうやって乗り換えるの?
トモ
私の場合を紹介するね。
みさき
お願いします。
トモ
お客さんがアイスコーヒーを注文したら、
まず「微糖と無糖どっちがいいですか」って聞くわね。
みさき
はい、聞きますね、そりゃ。
トモ
「無糖です」って言われるのね。
みさき
そうね、選べるなら「無糖で」って言うと思うよ。
トモ
でもMAMEHICOとしては、やっぱりアイコがおすすめよね、
香り高いから。
みさき
でも微糖って書いてあると、
コーヒー好きの人からするとちょっと邪道感があるかもね。
トモ
そう。だけどそれは誤解だから、まずは1回食ってかかるわけ(笑)
みさき
ハハは、食ってかかる(笑)
トモ
「あの、お客様。ちょっとお耳拝借よろしいですか?
私はアイコの方が美味しいと思う飯塚友美と申します。
なぜ美味しいかと申しますと、香りがいいんでございます」って。
みさき
ククク、めんどくさい店員(笑)
トモ
だけど、お砂糖がそもそも体に負担だと思う人もいて。
みさき
そりゃいるでしょうね。何も入れず無糖を楽しみたい人もいるよね。
トモ
そう。「無糖じゃだめなんですか(怒)」って、
突っぱねる人もいたりして。
みさき
いやいや、突っぱねてない、そっちが普通(笑)
トモ
それはそう。だけど、やっぱりアイコがオススメで。
みさき
トモちゃんて、根本がしつこいよね。
トモ
伝えてみるのは自由だから。でもなかには、
私の押しに負けて「じゃあ頼んでみようかな」
っていう人もいたりする。
みさき
あー、来ましたね。はい、それで?
トモ
無糖のレイコから迷って、アイコに移った注文には、
まず「ありがとうございます」ってお礼を伝えて、
いっそいでキッチンにアイコを取りに行く。
みさき
うんうん(笑)それで?
トモ
肩で息をして、「おっ待たせしました」って、ご提供して。
まずは一旦その場を離れる。
ふりをして、遠目で様子を見る。
そして、しばらくして、偵察に行く。
みさき
偵察(笑)
トモ
「お客様、その後、ご調子はいかがですか?」なんて聞いてみる。
みさき
これみよがしに(笑)
トモ
すると、「このアイスコーヒー、
今まで飲んだどのアイスコーヒーよりも美味しいわよ」
なんて言ってくれるお客さんがいて。
そしたら「ですよねーーー」ってかぶさる私。
みさき
おっ重たい店員(笑)
トモ
だって、ほんとにそうだから!
みさき
それってMAMEHICOのスタイルなの?(笑)
トモ
そこからは、そのお客さん、
必ず微糖を注文してくれたりして、ほんと嬉しい!
みさき
そうか、なんか、それはよかったね。
トモ
先だってはとある事件があって。
みさき
うん、事件?
トモ
徹頭徹尾、守備一貫、無糖っていうおじさまがいらして。
みさき
うん。
トモ
私もすべてをかけて挑んだところ、微糖に変えてくださって、
最後には「お嬢さん、美味しいねこれ」って。
「よっしゃ!」って思わず、キッチンでガッツポーズしたんだよ。
みさき
キャハハハ。
トモ
あー、この仕事やっててよかったっーーて(笑)
みさき
独特なやりがい(笑)
トモ
いや、お客さんの人生を変えることになることだよ。
そのくらいの意気込みで、MAMEHICOも臨まないと。

トモ、込み上げてくるものがあったらしく、涙ぐんでいる。

みさき
でも、甘いものと一緒に食べることが多いから、
そういう時はやっぱり無糖を選びたくなるかもしれない。
実際に飲んでみたら、別に邪魔はしないなとは思うんだけど。
トモ
MAMEHICOのケーキはそんなに甘くないし。
私は、アイコのほうがケーキにも馴染むと思ってる。
みさき
喧嘩しないってことね。
トモ
今日もアイコとレイコ両方にアイスをのせて、
飲み比べしてもらったんだけど。
みさき
えっ、そんなことできるの?
トモ
うん、お客さんによっては特別な計らいがあって。
「アイコの方がレイコよりアイスに合った」って言ってたの。
みさき
どんな計らいよ(笑)
でも、そうなんだ、なんでだろう。
トモ
私が思うに、苦味がちょっと消えてる分、ミルク感や香りを、
感じやすいのかもしれないのかなって。
みさき
ああ、なるほど。
みさき
レイコはこれはこれで、ガツンとダイレクトで美味しいけどね。
トモ
それぞれの良さがあるよね。
みさき
アイコは、美味しいんだけど、若干、砂糖の後味はするもんね。
トモ
全くしないわけではないよね。
みさき
好みだとは思うんだけど。後味すっきりはレイコかも。

抽出方法とブレンドの秘密

店内はおよそ、誰もいなくなり、二人だけになっている。

締め作業がキッチンでは進んでいる。

みさき
これの作り方って教えてもらってもいいの?
トモ
いいよ。アイスコーヒーはね、ホットコーヒーを入れる時の、
湯量が半分なの。
みさき
半分!?
トモ
とにかく濃く淹れる。
みさき
へぇ。なんかほどよい酸味も感じるんだけど?
トモ
それは中煎りの豆をブレンドしているから。
みさき
どういうこと?
トモ
深煎りは苦みがあって酸味がない。
そしてコーヒー特有の焙煎の香りも強い。
中煎りは酸味があって、苦みが弱い。
なので、深煎りに対して1割くらい中煎りの豆をブレンドしているの。
みさき
へぇーー。アクセント的に混ぜるっていう感じね。
トモ
うん、そう。
そして、挽き加減も違う。
深煎りコーヒーだとすごい粗くしてあっさり淹れるんだけど、
アイコはかなり細かく挽く。
みさき
お湯が半分。挽き方も細かく。
トモ
とにかく濃く出す。
みさき
挽き方でそんなに違うの?
トモ
全然変わる。細かく挽くのと粗く挽くのではまったく。
さらにミルごとに癖がある。
銀座のミルと神戸のミルじゃ味が違うの。
みさき
全店舗違うの?
トモ
そう、全店舗違う。この間も三茶でミルが壊れて交換したら、
調整するのにずいぶんと時間がかかった。
ミルの目に印をつけてるんだけど、違う店舗にヘルプで入った時、
ぜんぜん違うところに目印がついてて。
ちょっと「えっ」てなって。
だから各店舗でアイスコーヒーのレシピも違うわけ。
みさき
すごいね、最終的には味見して?
トモ
そう。「ちょっと濃いね」「ちょっと薄いね」って。
みさき
それって誰がどうやって決めてるの?
私の仕事でもよくあるんだけど、クリエイティブのチェックで、
最終ジャッジがあるじゃない?
トモ
現場のスタッフでまず自分たちで飲んで、
「ここかな」って決めてみる。
最後は日野さんとか井川さんが来たタイミングで飲んでもらって、
自分の感覚が合ってるかすり合わせる。
みさき
そうなんだ!
トモ
でも、常に井川さんや日野さんがいるわけじゃないから、
自分たちでやるしかないよね。
みさき
じゃあちゃんと味を分かってないとできないね、難しいね。
トモ
感覚だよね、大切なのは。
みさき
MAMEHICOのYouTubeを見てても思う。
檸檬ケーキの回で「こうやるとクリームの角が硬くなる」
みたいな話とか、本当に感覚の話してるなって。
目安はあるんだろうけど。
トモ
ルールは所詮、ルールでしか無い、がMAMEHICO。
みさき
体調によって味覚は変わったりもするでしょ。
トモ
そうなの。だからその時々で収まってればオッケーっていうのを、
経験しながら覚えていくしかない。
みさき
職人ですなぁ。
トモ
どんな仕事でもそうなんじゃないかな。
最後は感覚が頼りだよね。
みさき
ほんと、そうだよね。