【20th】扉の先で待っていたもの

みなさま、こんにちは。MAMEHICOメンバーのあさだたまみと申します。

私はMAMEHICOに来たら、ひとりでフルコースのように時間を過ごすのが、とても好きだ。
食事とデザート、その間を何杯かの飲み物たちで満たしていく。

先日、初めて三軒茶屋店を訪れた。
銀座店のまいさんが熱烈におすすめしてくださってから、1か月ほど経った暑い日だった。
駅に着いたものの、右も左もわからず、しかたなくGoogleマップを見ながら歩いた。
徒歩数分のはずなのに、はじめての街を歩く高揚感と緊張で、なんだか長く感じた。

やっと辿り着き、扉を開けた瞬間、拍子抜けした。
いつも銀座店でお世話になっているスタッフさんたちが、
「あ、いらっしゃいませ」
「三茶めずらしいですね」
(キッチンからひょっこり笑顔で手を振る)
…と次々にお迎えくださった。

通い慣れた常連さんのような気持ちと、ここまでの緊張と、三軒茶屋店という空間への“はじめまして”の気持ちが、ざわざわと入り混じった。

飲み物と食事を頼んで、待つ間に店内を物色する。
本店では物販もこんなにあるのか…と思いながら、ひとりにやついていると、早速食事が運ばれてきて、続いて、ふいに手の空いた日野さんが近づいてきた。

「たまちゃん、頼みがあるんだけど」
「えっ!(こわい…)」
ビビりの私は、いつもこういうとき過剰に反応してしまう。
そんでもって、あとでひどく反省する。

「文章書くよね?」
(いや、まったく書かない。必要に応じては書くが、人様に読んでいただくような文章なんて一度も書いたことがないのだ。)

返事もできずにどぎまぎしている私にも、いつも通り臆せず、日野さんはお話を進める。
その結果、今これを書いている。

これまたふいに、日野さんは何を思ったのか、
「たまちゃん、これ持ってる?」と『桜の木にバナナの実』という本を私に差し出した。
「いえ、はじめて見ました。」
「これ、どうぞ。いつもお世話になっているから。」

(え、わけがわからない。私は影山氏主宰の「胡桃塾」がきっかけで、はじめて公園通り店へ足を踏み入れ、職場の近くに銀座店ができると聞きつけて、最近お店へ通うようになった。“THEにわかリピーター”だ。20年通い続ける本物のファンを多くもつマメヒコさんの世界では、新人中の新人…!こちらがお世話になりに来ているのだ。)

「えっ!こわい、こわい…」
今度は我慢しきれず、「こわい」が声に出てしまった。

「たぶんね、たまちゃん、これ好きだと思うの。」
「え。あ。ありがとうございます。読んでみます。」
(私はこの“日野さん”というひとの謎の直観への信頼が、とても大きいのだとあらためて気づいた。)

遅読がコンプレックスの私が、その場で読了。
畏れ多いことに、気づいたら本にマーカーを引いたり、余白に質問を書き込んだり、何度か泣いたりしながら、あっという間にその本は「わたしの本」になった。

読み終えた私の目の前に、「きっと、あなたね」と声をかけずにはいられない『関根さん』が現れる。
さっきまでは、あんなところに人形があることなんて気にも留めていなかったくせに。

祖母が託した『あの時の遺言』が浮かぶ。
「お見送りは、姿が見えなくなるまで」。
祖母は、私たち家族にも毎日それをするひとだった。ちなみに、祖母は生きている。

ひとくちひとくち「ああ〜おいしい」と噛みしめながら、ドライカレーにチキンにソーセージを頬張り、井川さんを一冊浴びて、デザートともう一杯の飲み物をいただいたのち、これを書き終えた。

食事も、飲み物も、デザートも、よく手入れされたテーブルも椅子も──私に触れるものすべてが、まるで私を祝福している。
マメヒコの氷は溶けなくていい。
お店にいる間ずっと、私と一緒にいてくれる感じが、とてもいい。

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