矛盾の中に生きる

桐生の庭で「庭造り遠足」と称したコミュニティを定期的にやっています。来月もまたあります。
目的とか目標はとくにありません。
土をいじったり身体を動かしたりすることそのものに、大きな意味があるので、なにか身につくとか、効能は謳っていません。

桐生の紫香邸は、古い家屋を買い受けたので、少しずつ手を入れていかなくてはいけない場所です。
手間もかかるし、お金も相当かかる。
東京を拠点に活動しているボクらが、その維持管理をするんですから。
地元のヒトや、移住して暮らしているヒトたちと同じやり方はできません。
いろんなヒトに声をかけ、いろんなタイプのヒトを巻き込んでやっていくほかないのです。
気の合う仲間たちとやっていけばいいというやり方は、ボクはやらない。

今回も東京と桐生の両方で声をかけて、雑草を取ったり、砂や土をいじったりしました。
ごはんはボクとスタッフで適当に作って、みんなで食べました。
今回のお昼はおにぎりと豚汁、夜は餃子です。
初めて参加した人が多かったのでどうかなと思いましたが、さすが庭遠足に来るだけあって、みんな一生懸命やってくれました。ありがとう。

ボクはもう長いこと、こういう形でMAMEHICOで巻き込み事故を頻繁に起こしやっています。
いつも最初は、あえて詳しい説明はしません。
とにかくやってみて、という感じでやってもらう。

すると、みんな我流で勝手気ままにやり始める。
その作業の仕方や片付けを見れば、いままでどんな仕事をしてきたか、そして社会でどんなことを抱えているか、だいたいわかります。
そういうヒトを見る目のようなものがないと、脚本を書いたり演出したり、ステージに立ったりはできません。
できて当たり前なのです。

紫香邸は、長く付き合ってくれるヒトたちと作っていかなくてはいけないので、仲間集めは慌てません。
慌てませんが、早く集まってほしい。矛盾しています。

桐生紫香邸はMAMEHICOなので、常駐のカフェスタッフを置いています。
がしかし、みんな目の前のことしか見えていません、おどろくほどに。
部分最適で動いてしまう、それがスタッフというものかもしれません。
決して悪気があるわけじゃないのがまた厄介なんですが、どうして全体と自分の仕事をつなげて考えられないのかね、それじゃ進まんだろうにと思いますが…、前に進まなくてもあまり気にならないようなのです。

けど何をやっても点の作業のヒトばかりだと、全体は一向に進まないので疲れます。
疲れれば、互いの不平不満や愚痴が多くなります。
だから全体を見ればいいのにと思いますが、見ようとはしません。

それで腹を立て怒ったところで、あまり効果ありません。
「全体をみるとはなにか」と本人が気づかない限り、どうにもならないのです。
全体を俯瞰できるかどうか。それは年齢とは、まったく関係ないと思います。
気づくヒトは子供でも気づくし、気づかないヒトはいくつになっても気づかない。
俯瞰できないヒトが、上の立場だと、チームは疲弊して弱くなります。

うちはお金が潤沢にあるわけではないので、自然淘汰があります。
風通しの良い、掘っ立て小屋のようなものです。
気づくヒトが入ってくる、または育てば、俯瞰できないヒトは自然と入れ替わります。
ヒトだって自然の一部だから、入れ替わることは自然の摂理なので、あって正しいのです。

紫香邸では、切った草や枝をそのまま積んでおきます。
すると一年もすれば土に変わるのです。
そうやって雑草堆肥を作っているんですが、夏に観察したときは、腐った草の隙間に無数の森ゴキブリがいました。
「うわ、ゴキブリが土にしてくれてるんだ」とボクはたいそう感動したんですが。
今回の遠足では一匹も見ませんでした。たぶん彼らの役目を終えたんでしょう。
その代わり、まるまると太った、カブトムシの幼虫が10匹も、堆肥の中で眠っていました。

MAMEHICOをやっていると、ボクはいつもいろんな矛盾に苦しみます。
「効率よくやれ」と言いつつ、「非効率こそ大事なんだ」と同じ口で言ったりします。
「みんなで仲良く頑張ろう」と声かける一方で、「淘汰は自然の摂理」と冷静、ばっさりなところがある。
でも、どちらも本当だから仕方ありません。

日々、そういう矛盾を抱えたまま生きていくしかないのです。
失敗して、やり直して、また失敗して──その繰り返しの中でしか、整わない感覚がある。
ときどき筋が通っていて、自信に満ちている経営者に会ったりしますがそういう風にボクはなれません。

矛盾を抱えられるスタッフが出てくるかどうか。
紫香邸の行方はそこにかかっていると思う。育つのか、現れるのか。よくわかりません。

それにしてもいつの間に、カブトムシは卵を産んだのだろう。成虫は一匹も見なかったのに。

 


小さな店として始めて二十年。「MAMEHICOの大切にしている10のこと」をご紹介しながら、続けることの意味をお話しします。