不変と不可避

「珈琲豆の卸値についてご相談が」と札幌の焙煎所からお手紙が届く。
「いままでにない高騰でして、現状価格では持ちこたえられません。何卒ご理解を」と結んである。

「あのさ、過去何回、値上げしてきたんだよ。うちだって大変なんだ、そんな値上げは認めらんないよ」、と言いたいところだけど。開店以来のお付き合いだし、そもそも生豆の仕入れ値が上がっているのだから、「あらまぁ仕方ないですね、わかりました。お互い頑張りましょう」と返事しといた。

この値上げ。MAMEHICOのお客さんに転嫁されますから。もうほんと、色々限界ですよね。どうにかしてくんないかしらね。
コロナが明けても、賃金が上がらないのに物価上昇は続いてるので、財布の紐は固く、もとの売上になんか戻る気配もない。
「100円玉で買えるぬくもり、熱い缶コーヒー握りしめ」、お金もないし、缶コーヒーでも飲むかと自販機の前に立つと、なんとまぁ、なんとも予想外の光景。

ひとつの自販機に120円から180円の缶コーヒーがずらりと並んでいるのです。
いつの間に、こんな有り様になっていたにょ!!

驚きながら、並ぶコーヒーの売り文句と値段を見比べてみる。
丁寧に焙煎した=120円、飽きない旨さ=140円、渾身の一杯=160円、渾身の一杯、その微糖=170円、格別なコク=180円。
なにをどう選べばいいっていうのよ!!

ではと試しに「格別」を買って飲んでみた。えっ?あら?おい?いままでのと、なんか違いますかこれ?こちらのどこが「格別」なんです?
さっそくメーカーの本心を想像してみた。

「えー、こちらの缶コーヒーはですね、なんら普通でございます、いままでと変わりゃいたしません。ただ、ただですよ。そんな正直なこと書き添えましたら、お客様はがっかりいたします。なんだよそれ、とお感じになられます。手前どもはお客様をがっかりさせたくありません。ですから、中身はそのままにっ!!パッケージだけは、渾身の思いで…ウンヌンカンヌン」。

そりゃそうだ。そうだけどもね。ちょっと言わせてもらいますよ。あのね。
「究極」だの「匠の技」だのという嘘、「改革」という何もしない政治スローガン、お客様の健康維持と謳った怪しい健康食品、真実を伝えるという嘘つきニュース番組、特別感を演出するだけの「でっちあげのキャッチコピー」が、常態化して久しいこのニッポンで、こんな嘘が売上において効果をもたらすなんてこと、まだ信じてるわけ?
広告業界の引くに引けない慣習に乗っかって、ただ思考停止しているだけでしょうが。

どれもこれも本質に触れず、きれいごとだけを並べ、何十年もお茶を濁し続けてきた我が国ニッポンで、ボクは本質的なことだけに向き合いたい。MAMEHICOだけは良心を持ったそういうカフェであり続けたい。

「井川さんて、胡散臭いヒトだと思ってました」。

ここのところボクの活動を、映像でまとめているチームの男性たちからそう言われた。
「本質に向き合う」だのと、きれいごとをほざくカフェ店主なぞ、なんと胡散臭いことかと。

ボク自身、日々何をしてるのかと聞かれても困る。
やってることが多岐にわたっているので、理解されず誤解されていたとしても仕方ないと思っている。
実際のボクを知ってるヒトなんてほんとわずかだし、分かるヒトだけわかればいんじゃないの?というスタンスで暮らしてきたので、もしかしたら胡散臭いやつだとかなりのヒトに思われているのかも知れない。
(そんなにボクに関心があるヒトがいるとも思わないけど)

男性はボクの身辺をいろいろと取材し、そのヒトたちは口々に「井川さんは、ちゃんとやってますよ」と証言したそうで、あらら、なんともつまらない取材になったんではないかしらと、なんだかボクがソワソワしている。

井川啓央
Author: 井川啓央

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