次の三年を共に育てる

MAMEHICO銀座が三年になろうとしています。

始まりはコロナ禍。
渋谷店を閉めるかどうか迷っていたときに、「銀座でやってみませんか」と声をかけてもらったのがきっかけでした。

勢いで始めた「ステージ付きのカフェ」。
半分は流れ、半分はとにかくやってみるか、と。そうして気がつけば三年が経ちました。

やってみて、はっきり分かったことがあります。
──お客さんにとって、MAMEHICOの演劇やライブは何をやっているのか、さっぱり見えないということ。
これは店として致命的。
このまま続けてはいけないと痛感しました。

映画には予告編があります。
有名アーティストのコンサートなら曲目や雰囲気でだいたい想像ができます。
けれど銀座の小さなカフェでやる舞台は、「なんだかよく分からない。楽しめるのか怪しい」──たとえていえばこういうものです。

雑居ビルの10階。
看板も出ていない1002号室でシェフのお任せコースを始めたとして、だれが入っていくでしょうか。
噂を聞いていたとしても、「本当にここで合ってるの?」「入って大丈夫?」と不安になって、たいていのヒトは引き返すはずです。

つまり、MAMEHICOの舞台は1002号室でシェフのお任せコースなのです。
しかも「高い・長い・短い」がそろっている。
チケット代は数千円。拘束時間は二時間前後。上演期間はわずか数日。
さらには、たとえ1002号室のイタリアンが絶品でも、二日間しか営業していなければ「評判を聞いたけど、行ったらもう終わっていた」となる。

これで「なかなか、集客が厳しくてですね」という1002号室のシェフ。つまりボク。
バカか、当たり前だろ。自分をハンマーで殴りたい。
この条件では、お客さんにとってリスクが大きすぎるのです。

そこでボクが考えた結論はひとつ。
──こうなったら、カフェスタイルでやるしかない。
短期で「どうだ」と見せるのではなく、長く同じことを続けていく。つまりロングランです。

ロングランには二つの効用があります。
ひとつは口コミが広がる時間を稼げること。
感想を聞いて「行ってみよう」と動くまでに時間がかかる。小さな店ならなおさらです。
ロングランなら「評判を聞いてからでも間に合う」。
そうやってじわじわと来てもらう。

もうひとつは繰り返し観てもらえること。
舞台は生もの。同じ演目でも回ごとに違う。
演者の呼吸や観客の反応で変わる。
だから何度見ても面白い。
そういう体験を観客にもしてもらいたい。

そんななかで、MAMEHICOの舞台でボクが大切にしたいことは三つです。

ひとつは意外性/即興性。
その場でしか生まれない驚きや笑い。予定調和ではない瞬間。
いまは配信が主流の時代です。
そんな配信に勝つためには「思いがけない体験」を届けるしかない。

二つめはアコースティック。
大音量や大光量で感覚を麻痺させる舞台は受けやすい、それはもちろんそうです。
けれど、生の声や音、ささやかなやりとり。
小さな空間でもヒトは感動するはずなのです。それを伝えたい。

三つめはウェルメイド。
とにかく、雑に作らない。作り込むべきところは丁寧に作る。
脚本や構成、企画。「MAMEHICOはやっぱり完成度が高いね」と観客に安心感を与える。
こうすることで、新しい作品やライブも見てもらいやすくなるはずです。

意外性。アコースティック。ウェルメイド。
この三本柱でMAMEHICOの舞台を育てていきたい。

ボクはやってみないと気が済まない性格です。
銀座で三年。たくさんの失敗をしました。
肝の小さいヒトならノイローゼになっていたでしょう。
でもボクは楽観的なので、授業料、学びの期間だったといまは思っています。
生のステージに、お客さんが泣いたり笑ったりして帰っていく光景も目のあたりにして、やっぱり可能性があるとも思っています。

次の三年はさらに改善し、新たな挑戦をしたいと思っています。
この考えに賛同し、一緒にやってみたいと思ってくださる方。ぜひご連絡ください。
一緒に、MAMEHICOの舞台を育てていきましょう。

MAMEHICO 井川啓央

 

小さな店として始めて二十年。「MAMEHICOの大切にしている10のこと」をご紹介しながら、続けることの意味をお話しします。