なんでメンバーシップ制なのか。よく聞かれる質問です。
時には「なんでそんなややこしいことをするのか」と怒られることもあります。
けれど、ボクたちがやろうとしているのは、当たり前のことを当たり前にしたい、それだけなのです。
たとえば。バターならちゃんとバターを使いたい。
牛乳なら牛乳をそのまま使いたい。それだけのこと。
ところが今では、それは「贅沢ね」と言われてしまう。
なぜなら、もっと安い「似たもの」が世の中にはびこっているからです。
バターのように見えてバターではないバター?
牛乳のように白いけれど牛乳ではないミルク?
便利で保存もきくし、安価で流通しやすい。
それで十分じゃないか、と多くのヒトは思っているけど、ボクはそういう「似ているもの」を使いたくありません。
「これはバターです」「これは牛乳です」と言えるものだけを正直に使いたい。
そういうことを決めてMAMEHICOを始めたんです。
肉や小麦、ついにはお米まで、外国産のほうが安いから、飲食店はそれを選ばざるを得なくなっています。
それは由々しきことだと思いませんか?
外食がすべて外国産に頼るようになったら、日本の農家も漁師も職人もみんないなくなってしまうではないですか。
福岡の糸島で、糸島の杉だけを使って建物を改築したんですが、それも同じ発想です。
地元の木を、地元の大工さんの技術で組み上げる。当たり前のことをやりたかっただけです。
けれどそれすら「贅沢ね、国宝でも作るの?」と笑われた。
そんなことしていたら、そのうち「日本人が働いているなんて贅沢ね」と言われる時代が来るでしょう。いや、もう来てるか。
ボクはそれをおかしいと思うけれど、ボクのほうがおかしいのかしらね。
本物を使いたい、正直にやりたい。
けれど本物は高い、日持ちもしない。
大量に仕入れて売れなければ廃棄になる。
そんなやり方では、そもそも店が続けられない。
だからなるべく予約してもらう、受注してから生産する、お客さんの何人かの方にはMAMEHICOの当事者になってもらって手伝ってもらう。
小さなカフェを続けていくために、たくさんのヒトに一緒にやってもらうほかないんです。
いまの時代の日本はそういうところにいるんです。
店内の空間だって同じことです。
国産の職人が作ったテーブルやイスを使う。
水回りはいつもきれいに保つ。
そして、いつも花を生ける。
それもお金がかかります。
他に事業のないボクたちは、カフェだけで採算を取らなくてはなりません。
ほかから融通ができません。
飲食代をいただくだけではやっていけないので、だから「応援してください」とお願いしてるんです。
「神戸 暦の手帖」という動画を作り始めました。シリーズにする予定です。
撮影はお花の先生である一谷さんが、店の近くで道草をして、季節のものを店に持ち帰って活ける。そんなコンセプトです。
店内にどどんと豪華な花を買ってきて「きれいでしょう」と飾るのは、ボクたちでは無理です。
採算も合わないし、コンセプトとも違う。
「暦の手帖」を見てもらえばわかりますが、道端の草木だって、切り取り方ひとつで美しいものになるんですよ。
あの動画を見て、スタッフやお客さんが店内の草木に気づき、取り替えたり補充してくれたり自然にできるようになるなら、お店はいつだって地元の季節の植物で満たされる。
それだけで大げさな花を飾るより、ずっと素敵な空間になると思いませんか?
茶室というのは、本来そういう場所だったはずです。
それが茶店になり、喫茶店になり、カフェになった。
さらにこの20年、すっかり大手チェーンのビジネスの場に取って代わられてしまいました。
そこは快適で便利でも「お客さんが参加する余地」はない。
そうやってお互い様が失われてしまったんです。
コロナから数年、東京には外資が入ってきて、さらに競争が激しくなりしのぎを削るようになりました。
ボクたちの居場所も、いまのままでは残らないと思います。
顔も名前も知らない相手ではなく、実名で、信頼できるヒトと関わること。
それがボクたちに残された唯一の道だと確信し、メンバーシップ制への切り替えを決めたんです。
ただ、当初、ボクが思い描いたものとはまだまだ程遠く、歯ぎしりをしています。
そのうちに、店がなくなってしまったら、いままで応援してくれたヒトたちに申し訳ないという気持ちからです。
御影の街を歩き一谷さんが摘んだ草を手にしている映像を編集しながら、つくづくこう思ったのです。
風景というのは、ヒトとともにこそあると。
どんなに素敵な景色でも、そこにヒトの息吹が感じなければ絵にならない。
パラパラとそれっぽい素敵な絵をつないでもダメなんです。
それは店も同じ。スタッフもお客さんも、たくさんのヒトの関わりがあって、初めてカフェがカフェになる。
お客さんが少ないガランとした店内は、やはり決定的なものが欠けている。それがどんなに良い内装でも。
そういうわけで引き続き、応援をお願いします。
スタッフもお客さんも、意識を変えなくちゃいけないときに、とっくに来ている、それがボクの考えですが、おかしいですかね。

小さな店として始めて二十年。「MAMEHICOの大切にしている10のこと」をご紹介しながら、続けることの意味をお話しします。



