安定と不安定

こんにちは。MAMEHICO神戸・御影、店長の妻の渡辺みゆきです。

オープン当初は、東京の先輩にサポートしていただきながら、夫でもあり店長のしげちゃんと二人三脚で店を切り盛りしていました。
すべてが初めてで、失敗ばかり。思うようにいかない日々が続きました。
それでも少しずつお客さまが増え、「お手伝いしたい」と声をかけてくださる方との出会いもありました。

二年半が経った今では、私たち夫婦を含めた4人のスタッフでお店を回せるようになりました。
大きなイベントや頻繁なメニュー替えも、みんなで協力しながら進めることができて、「御影のチームもようやく安定してきたな」と、ほっとしていたところでした。

そんな様子を井川さんに伝えたところ、ふと「安定は不安定。不安定は安定だよ」という言葉が返ってきました。
最初はすぐに理解できませんでしたが、どこか心の奥に残っていました。

カフェというと、静かで落ち着いた場所というイメージがありますが、実際は違います。
お客さまが少ない日でも、キッチンでは計量、仕込み、在庫確認や発注、掃除などが同時進行で行われ、ほとんど休む暇はありません。
だからこそ、スタッフ同士のちょっとした声かけや確認が欠かせません。
伝え忘れがあれば、料理やデザート、なんなら接客にも影響が出てしまいます。

そんな中、ありがたいことに最近は週末を中心にお客さまが一気に増え、これまで通りの動きでは立ちゆかなくなる場面も出てきました。

キッチンを仕切ってくれているさくらちゃんは控えめで遠慮がちなタイプ。
反対に私は猪突猛進で、忙しいときほど思ったことをすぐ口にしてしまいます。
私としては責めているつもりはなく、なんとか改善したいと必死なのですが、その勢いに押されて、相手が言いたいことを飲み込んでしまう。
そんなことが、これまでも何度かありました。

「どう言えば良かったのか」
「どうすればもっと気持ちよくコミュニケーションが取れるのか」
そう思いながらも、忙しさにかまけて問題を先送りにしていました。

そんな折、新メニュー「紫陽花ケーキ」の準備中に、小さな事件が起きました。
さくらちゃんが、「メニュー初日に万全の体制で出せるよう、余裕を持って準備したい」と提案してくれました。
みんなで話し合い、仕込みの少ない平日の朝に試作を行い、万一の混雑にも対応できるよう、動き方を細かく決めました。

迎えた試作当日。順調に進んでいたある時、さくらちゃんが泣きそうな顔で「みゆきさん、すみません、失敗しました」と声をかけてきました。
私は「ここでまた言葉を飲み込ませたらあかん」と思い、ドキドキしながらも笑顔で詳しく話を聞きました。

「不安だったので、しげさんにも相談したんです。でもうまくいかなくて…」
話は要領を得ませんでしたが、何かがうまくいっていないのは伝わってきました。
私は店全体の状況を確認するため、別の作業をしていたしげちゃんを呼び、三人でキッチンに入りました。

話を進めるうちにわかったのは、実は失敗ではなかったということ。
バタークリームの工程をまだ途中までしか終えておらず、仕上がりが想像と違って不安になっていたのです。
それを「失敗」と思い込み、助けを求めていた。
でも私は、そのサインを受け取れなかった。
あらためて試作を行い、美味しいバタークリームが完成しました。

けれど、このままではダメだと感じました。
お店がもっと忙しくなったら、キッチンは回らなくなる。
そう思い、その場で三人で話し合いました。
さくらちゃんは「自分に自信がなくて、どう思われるかが気になり、素直に助けを求められない」と話してくれました。
私は、自分の勢いに任せて、彼女の繊細な心に向き合わずに進んでいたことを反省しました。

苦手なことは誰にでもあります。
でもそれを支え合いながら、もっとたくさんのお客さまに来ていただき、心地よく過ごしていただけるお店にしていこう。
そうやって、チームとしてあらためて気持ちを一つにすることができました。

安定していたはずのお店が、不安定になったからこそ見えてきた課題でした。
ほんとうは、安定していたときから、その兆しはあったのに、私は見て見ぬふりをしていた。
だからこそ今、不安定なこの状況に向き合えば、また次の安定につながっていく。
店をもっとよくしていける。そう思えたとき、井川さんの言葉がすとんと腑に落ちました。

あの小さな出来事から少し時間が経った今、思い返すと、あの時はどうなることかと思ったけれど、こうして毎日のなかで学べることがあるのは、大変だけど楽しい。
幸せなことだなと、あらためて感じています。
ちょっとだけ前に進んだ御影店で、ますます美味しいデザートをご用意してお待ちしていますね。

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