人づくりなくして、未来なし

神戸のお店が忙しくなってきています。
「苦節三年」とはよく言いますが、この9月で開店から三年を迎え、ようやく地域に認知されてきたようで、お客さんが来てくださるようになりました。

当初、神戸のスタッフは「この御影の場所で、お客さんが来てくれるか」を心配していました。
まぁ、その心配はわからないじゃない。
けど、ボクは大丈夫だと繰り返し言いました。

誠実な接客、清潔な空間、美味しいもの、クスッとしたユーモア──これを毎日提供していれば、必ずや神戸のお客さんはボクたちに気づいてくれる。
良質な物に日ごろから触れている神戸のみなさんなら、わかってもらえるから大丈夫と励ましていたわけです。

むしろボクが最初から心配していたのは、お客さんが増えてからのことです。
そこで必ず直面するのは「人」の問題です。
立ち上げの頃は、仕組みや管理がなくてもなんとかなるもんです。
スタッフもお客さんも少ないから、頑張りや熱量で押し切れる。
しかしお客さんが増えれば、スタッフも増える。
徐々に、物事は複雑になり仕事は細分化され、細かい指示や連携が欠かせなくなっていきます。

特にMAMEHICOのように手作りのデザートやパーソナルな接客を重視する店では、コミュニケーションの密度が問われ、それが滞れば一気にさまざまな問題が生じてしまう。

「思っていた仕事と違う」「待遇に不満がある」──新しいスタッフの声が、古参スタッフのやる気を削いでしまう。
仕事を抱え込みすぎる古参と手持ち無沙汰な新人に分かれ、店の空気が変わる。
顔だったスタッフがなにかのきっかけで離脱し、そこでようやく「大変な事態だ」と気づいてみんなで慌てる。
きっと神戸はそうなるでしょう。

──これはなにも占いではなく、強い組織になるためには自然な流れなのです。
神戸もようやく、その入口に立てたのだと、喜ばしいと同時にボクは気を引き締めています。

なにも神戸に限ったことではなく、この課題は、コロナ禍でスタッフが総入れ替えになった東京のMAMEHICOでも同じです。
ただ、東京には20年間、お店を支えてくれたお客さんの厚い層があるからまだ猶予はありますが、それとて、やはり今までのやり方のままではダメはダメなのです。

結論を言えば、この局面で必要なのは「リーダーシップ」だと思います。
現場に立つヒトが「どこまで任されているのか」「どこからは報告や相談が必要なのか」を自分で判断できるかどうかで仕事の質とスピードは決まる。
そこを決めていかないとリーダーではない。
そこが曖昧だと、動けないヒトと暴走するヒトが生まれて、店はおかしなことになってしまうわけです。

リーダーシップといってもね、小さな信頼関係を築くことですよ。
信頼がないまま指示だけを出しても、ヒトは動いてくれない。
「このヒトの言うことなら聞いてもいい」と思ってもらえる関係をつくること。
そのうえで、「何やってんだおまえ」と厳しく詰める場面と、「まぁいいんじゃないの」と甘えを許す場面とを明確にしていくことが大切じゃないかとボクの経験則です。

神戸が次の段階に進むためには、「人づくり」を避けて通ることはできない。
さーて、できるかしら。始めてしまった以上、やってもらうほかない、それはまぁ宿命なんです。