みなさん、こんにちは。MAMEHICOスタッフの草ヶ谷美香です。
今年も檸檬ケーキが始まりました。
サクサクのパイの上に檸檬のカスタードクリーム(通称、檸檬クリーム)と純生ホイップクリームを2層にして乗せただけという、とてもシンプルなデザートです。
檸檬クリームを炊く、それは冬の私の仕事です。
卵黄と牛乳に砂糖を加え、コーンスターチをふるい入れます。
そこにたっぷりの国産檸檬の果汁を注ぎ、「さわり」の銅鍋で火をかけていく、ふわっと爽やかな酸味が立ちのぼります。
木べらを手早く動かしながら炊いていく。焦がさないように、固めすぎないように。
鍋の底をなぞるたび、クリームのとろみが少しずつ変わっていきます。
さらさらとしていた液体が、次第に重たくなり、艶やっぽく輝きはじめる。
その瞬間を見極めるのが、私は好きです。
火を止め、スプーンですくってみると、口に広がる、甘酸っぱくてなめらかな味わい。
カスタードクリームのコク、檸檬の爽やかな香りがふんわりと溶け合います。
やっぱり丁寧に作ったものは、味も香りも違うんです。
この檸檬クリームを炊くという私の仕事。実は誰にでもできるものではありません。
「体力と持久力があるスタッフ」だけが任される特別な仕事なのです(笑)。
火元の前に立ち続けるのは想像以上に暑く、さらに鍋の中身をひたすら回し続けなければならないこの作業は、並大抵の体力では到底こなせないのです。
しかも、檸檬ケーキは人気なので、毎日作る量がとにかくすごい。
私は細面ですが筋肉体型で、筋力と体力だけは学生の頃から自信があったので務まっているのです。
この私が毎年炊いてきた檸檬クリームですが、10年以上炊き続けていると、最初の頃と、私の姿勢が変わってきたなと感じます。
入ったばかりの頃の私は、とにかくひたすら檸檬クリームだけを炊こうとしていました。
目の前の鍋と向き合う。自分の仕事に集中することが、すべてだと思っていたのです。
だけど、MAMEHICOでの仕事は、当たり前ですけど檸檬クリームを炊くことだけじゃありません。
檸檬ケーキひとつとっても、クリームだけではなく、パイをサクサクに焼き上げること、ホイップクリームをふんわり立てること、きれいに組んだケーキをきれいにカットして、冷たいお皿に乗せて提供することも同じように大事なのです。
ほかにも客席に目を配るのはもちろん、働いてるスタッフの体調さえ気配りする、それがMAMEHICOで教わった哲学なのです。
私はいつも目の前に気を取られ周りが見えなくなるタイプなので、いつも井川さんに「ミカは自分さえ良ければいいと思ってる、独善的な仕事をするな」と叱られてきました。
それを痛感したのは、去年、糸島でお店づくりを任されたときです。
福岡という新しい場所に住み、イチからお店作りを任された私は、頑張らなくちゃと小さなことばかりに囚われて、全体のスケジュールや予算ということにまったく気が配れず、大きな失敗をしてしまったのです。
失敗そのものを叱られたんじゃなく、「なんでできないと気づいた時点で、早めに声を上げなかった?だいじょぶか?とボクが聞いたとき、なんでだいじょぶです、と返事した?」と井川さん。
たしかにそうです。「10年間、何度も叱られわかっていたつもりなのに、私はちっともわかっていなかった」と愕然としました。
ほんとうに心底、落ち込みました。
「独善的」と言われていた意味が、やっと腑に落ちて、自分は欠陥人間じゃないかと思ったほどです。
最近は私も後輩のスタッフに教える機会が増えました。
彼女たちを見ていると、あの頃の自分そのものと感じることも多々あります。
「ミカさん、これはどうしたらいいですか?」と助言を求められますが、糸島から東京に帰ってきたいまの私は、「自分で経験し、自分で気づいたことからしか人は変われないよ」と答えることにしています。
今年も檸檬クリームを炊きながら、それがほんとに身に沁みているのです。