カフエ マメヒコは、三軒茶屋でお店を出しました。20年前の7月のことです。
飲食店のアルバイトさえしたことなかったボクが、まさかカフェを始めるなんて思いもよらなかった、というのが本音です。
今もって、なんで始めたのか、神のいたずらだったんじゃないか、と思っています。
とはいえ、始めちゃったわけですから、真面目に一生懸命、潰さないようにしなくちゃなと。
それでやってみてすぐに、「あっ、これ、一軒だけやってたんじゃダメだわ」って気づいたんです。
だからすぐ、渋谷に二軒目のマメヒコを出しました。
その間にクルミドコーヒーを頼まれて作って、その後、また渋谷に一軒、新しいマメヒコを作りました。
当時は「一つちゃんとやれるようになってから、次に行きなさいよ」と、まあ、銀行にも怒られました。
でもボクは、まったく聞く耳を持たなかった。生意気だったんですね。
ボクの言い分はこうです。
「そうかな、ひとつにこだわるほうが危ないと思うね」です。
店をやってみて、全力を注いだからといって、うまくいくとは限らないとわかったんです。
いろいろ試してもうまくいかない理由がはっきりしない。
たまたま三軒茶屋の立地の問題でうまくいかないのか、そもそもメニューが悪いのか、それとも運営方法がダメなのか。
そういうのを見極めるためには、違う場所で同じことを試して、データを取ったほうが早い。
だから、複数のお店を出さないと危険だって思ったわけです。
もちろん、これはリスクですよね。
店を出すには大きな資金がかかるから。
一つに集中するほうが安全だって考える人もいます。
でもボクは、あちこちで試してみるほうが、結果的に生き残れると考える人間なんです。
アメリカのことわざに “Don’t put all your eggs in one basket” (すべての卵を一つのカゴに入れるな)というのがあります。
一つのカゴが壊れたら、すべての卵が割れてしまうから、複数のカゴに分けてリスクを分散しなさいね、っていう教え。
一人の恋人に純情を捧げるのは美しい。でも、もしその恋人がいなくなってしまったら困ってしまう。
だったら「他にも愛する人がいれば救われるじゃないか」。
冷酷に聞こえるかもしれないけど、ボクはそう思うタイプです。
だって考えてもみて。
身体の重要な部分は必ず二つあるでしょう。目だって耳だって、手や足も。
それは片方を失っても、もう一方で何とかなる、命をつなぐための備えでしょう。
スタッフの働き方についても、「すべての卵を一つのカゴに入れるな」としつこく言います。
一人ですべてを抱え込まず、できるだけ班を作り協力して進めなさいよと。
誰だって「自分でやったほうが早い」と感じることはある。
急いでいるときほどそうね。だけど、それは危険です。
そう言っても、なかなか守ってくれないね。
けどね、こんなことがありました。
去年のクリスマス、信頼してくれたお客さんのチキンの予約を忘れたっていうミスがあった。
その方は、ボクの話を聞いて「今年のクリスマスチキンはMAMEHICOにしよう」と決めてくれたヒトです。
それなのに、スタッフがチキンを用意し忘れた。
担当したスタッフは、「私の責任です」と平謝りだったけど、謝りゃいいってもんでもないわね。
問題はそのスタッフ以外、その予約を誰も把握してなかったということが、そもそもの誤りなわけだから。
大切なのは、次にどうするか。
誰か一人がミスをしても、他の人がフォローできる仕組みを作ること。
カフェは科学の力で運営してはダメである、っていうのがボクの信条ではあります。
人間の持ってる曖昧さ、人間臭さが残ってないと、良い店にはならないよなと思うんです。
でもだからといって、「人間がやってるんだから、失敗して当然だ」という開き直りは傲慢だと思う。
人間の英知で飛行機は落ちないようになってるから、みんな海外に好きなだけ行けて助かってるわけでしょう。
人間が運営する以上、曖昧さや甘さが入り込む余地がある。
だからこそ、失敗に備えた仕組みや意識は必要で、反省だけで終わらず、リスクを分散しなくてはダメです。
誰かが倒れても続いていける体制を作る。
それがMAMEHICOの知恵だと思います。