MAMEHICOの冬と言えば、やっぱり『檸檬ケーキ』ですね。 これ、もうずっとお店で続けてきた定番なんですけど、ただ美味しいだけじゃなくて、いろんな歴史とか、不思議な縁が詰まったお菓子なんです。
きっかけは15年前の「お芝居」でした
檸檬ケーキには、いくつかの偶然や、少し不思議な縁が重なっています。
きっかけは、15年ほど前のことです。
MAMEHICOを始めて、まだ5年も経っていなかった頃です。
なぜそんなことを思いついたのか、今となってはよく分かりませんが、ボクは新宿の千人規模のホールを借りて、檸檬の白い帖という芝居をやることにしたのです。分不相応だったと思います。
舞台にはレモンの木が立っていて、ボク自身はルイ十四世のようなかつらをかぶり、レモンの王様を演じました。物語の細部は、正直、あまり覚えてないけど、劇中に檸檬ケーキというケーキが出てくる。
その小道具として作ったのが檸檬ケーキです。それで生まれたのが檸檬ケーキです。単なる思いつきから、生まれたわけね。まさか、その後こんなに長く、冬になるたび作り続けることになるとは、そのときは想像もしてなかったけど。

瀬戸内の「レモン島」との出会い
じゃあ、そのケーキはどんなレモンを使うの? という話になるわね。 その時に、当時新卒で入ってきたスタッフのアイコが言ったんです。
「ワタシのおじいちゃん、実は瀬戸内海の島で暮らしてるんですけど、そこは“レモンの島”なんです」
彼女の話によると、おじいちゃんが作るレモンは、高齢で収穫しきれなかったり、風でトゲが当たって皮に傷がついたりしたものが、木の下にたくさん落ちてしまっていると言うんですね。
「それなら、そのレモンを使わせてもらいたい」
ボクはすぐにアイコと島へ飛んで。それ以来、MAMEHICOには毎年冬になると、瀬戸内の島からダンボールいっぱいのレモンが届くようになったんです。 今でこそ「瀬戸内レモン」はブランド化されていますが、MAMEHICOはそのブームが来るずっと前から、傷ありの、でも愛おしいそのレモンを使わせてもらっています。

「卵白だって命なのよ!」になります。
檸檬ケーキの核になっているのは、カスタードクリームにレモン果汁とバターを合わせたレモンカードです。濃厚で、冬に向いた味です。その代わり、これを作ると卵白が大量に余ります。
最初の頃は、その卵白を捨てていました。
けれど、どこかでずっと、もったいないなと思っていました。
そんな折、ひょんなことから、MAMEHICOで映画を作ることになりました。
何を撮ろうか考えていたとき、ふと思い出したのが、その卵白でした。
2011年の震災のあとで、大量生産大量消費に対する見え方が変わったころです。
生き残ること、残ってしまうこと、無駄にしてはいけないもの。
その感覚と、卵白への引っかかりが重なって、「もったいない」という思いを映画にした。それが『さよならとマシュマロ』です。
「卵白だって命なのよ。捨てるなんて、だめじゃない」
とシスターに叱られて、それで、余った卵白でマシュマロを作るようになるというはなしです。今では、冷凍卵黄なども使って、卵白を捨てないレシピに変わってます。


焼きたて、作りたての「お寿司」のようなケーキ
こうして生まれた檸檬ケーキは、当時渋谷にあった店で、日に百個近く出ることもありました。棚に、焼きたてのパイがずらっと並んでいたのを覚えています。
このケーキがたくさん売れた理由ははっきりしています。スタッフがその場で組み立てられて、売り切れがないからです。
パイ、レモンカード、ホイップ。この三つがあれば、注文が入ってからすぐ仕上げられる。閉店間際でも、寿司屋が「ネタがあれば握る」ように、いくらでもどんと来いと構えられた。それが強かった。
ただ、売れるほどに問題もありました。
それはレモンを絞る作業です。
冬の厨房はスタッフの手が荒れるんですね。そこにレモンの酸が染みる。国産レモンは皮が厚く、絞っても果汁は多くない。
機械絞りも試しましたが、皮の苦味が出て、味が違う。それでお客さんたちに絞ってもらう「檸檬絞り隊」ができたんです。
MAMEHICOの檸檬ケーキが美味しいのは「手絞り風」ではなくて、ほんとにたったいま絞った果汁を使っているからです。





