みなさま、こんにちは。MAMEHICO東京メンバーの上原靖代と申します。
2005年の7月、カフエマメヒコが三軒茶屋にできる時から、オープニングスタッフとして働きはじめたのをきっかけに、15周年を越えたあとあたりまで、お店に立たせていただきました。
長年働いていたので、20周年に当たり、エピソードは次から次へと思い出されます。
今日もその中の一つをご紹介します。
その出来事は、2007年。
MAMEHICOの2店舗目となる「カフエマメヒコ渋谷店」でのことでした。
私は当時、三軒茶屋店の店長としてお店を任されていましたが、渋谷店の立ち上げにあたっては、両店舗を行き来しながら勤務していました。
渋谷駅から少し歩く場所にあり、設えは立派ながら、開店当初の店内は閑散としていました。
午前中はスタッフ一人でも営業ができるほどの静けさでした。
ある朝、近隣の職場へ出勤前と思しき50代後半くらいの女性のお客さまが、ひとりでご来店されました。
14メートルもの長さがある、渋谷店独特の長テーブル。
その中央あたりの椅子に静かに腰をおろされました。
食事を終えられ、お会計の合図をいただき、いつものようにテーブルへ。
MAMEHICOでは、レジでの精算ではなく、スタッフがお財布を持って席へ伺う「テーブル会計」を採用しています。
それはお会計の際に自然と小さな会話が生まれやすくするための工夫です。
伺うと、思いがけず、こんなお言葉をいただきました。
「とても素敵なお店ね。生花も飾ってあって、お食事も美味しくいただけました。ありがとう。けれど、ひとつだけ、気になったことがあって──」
そう前置きされた後、女性は静かにこう続けられました。
「あなた、サービスのとき、テーブルをまたいで、正面からお料理をお出しになったでしょう?あれは、少し失礼にあたる所作なのよ。
たとえば、お寿司屋さんでもカウンター越しにお寿司を出すときには、『前から失礼します』とひと言添えるのが礼儀。
日本では、そういう礼儀や所作がとても大切にされてきたの。
このお店の雰囲気はとてもよくて、設えも上質。
だからこそ、そういう細やかな所作がきちんとしていたら、もっと素晴らしくなると思ったの。
大きなテーブルだから大変だとは思うけれど、その時だけは、ぐるりと回って横からそっとお出しになったほうが、お店の品格にも合う気がするわ。
そう思って、お伝えさせていただいたの」
語り口は終始穏やかで、押しつけがましさなど微塵もありませんでした。
むしろ、この店の未来に向けての期待が、そこには感じられました。
それからその方は、渋谷店の朝の常連さんになってくださいました。
経験の浅かった私たちにとって、所作や間合いの大切さを、こうしてやわらかに教えてくださったあのひと言は、今も私の記憶に深く刻まれています。
『テーブル会計の間合い』──
ほんの数秒のやりとりのなかににじむ、礼儀や心配りの在り方。
私はこの方から、その本質を学ばせていただいたのだと思います。



