連続ドラマ「ノッテビアンカ」のこと⑱vol.6-3

こんにちは。MAMEHICOの坂本智佳子です。
年明けから、YouTube連続ドラマ『ノッテビアンカ』をご紹介しています。
ドラマでは宝田クミ役として出演もしましたが、実は私、裏方全般を担当する制作のメインスタッフでもあります。
出演は「ちょっとだけ出てみた」くらいの感覚で、根っからの裏方好きです。

今回ご紹介するVol.6のタイトルは「Atom」。
『ノッテビアンカ』というドラマは、全体を通して「食べる」シーンがいくつも登場します。
だれかと一緒に囲む食卓もあれば、ひとりで黙って口に運ぶ場面もあり、それぞれの暮らしぶりや関係のかたちが、なにげない食事のなかににじんでいます。

トシコが夜の食卓でひとりご飯を食べる姿。
テレビもつけず、会話もなく、ただ食べている時間に、それぞれの孤独がそのまま映っていたように思います。
ケンタが部屋でひとりカレーを食べるシーン。
一方で、セツオや夫たちとにぎやかに囲む朝食シーン、みんなでおそばをすする場面もありますね。

Vol.6「Atom」のact3にも、そんな場面がいくつかあります。
ケンタが多摩川の河原で牛丼を食べる。
ユウイチがメロンパンをかじる。
マイコの父が、コンビニのおにぎりをほおばる。

どの場面にも台詞はほとんどなく、ただ食べるだけなのですが、その人の時間や、誰とも交わらない日々が、静かに映っている気がしました。

撮影をしていたのは、まだコロナ禍のさなかでした。
「黙食」が推奨され、食事を共にすること自体が制限されていた時期です。
その中で「一緒に食べる」場面を執拗に描くことは、ある意味で、井川監督の世間に対する批判だった気がします。

劇中の食事は、すべてその場で準備し、実際に役者もスタッフも、みんなで食べていました。
ただの小道具ではなく、唐揚げを揚げ、ごはんを炊き、湯気の立つ料理を出す。
食べ方についても、「食べること、セリフを言うこと、それぞれを交互にやろうとするな。全部いっぺんにやれ」と、監督は何度も食べるシーンにこだわっていました。

「食」を大切にするところは、MAMEHICOのドラマらしいところですが、実際の撮影となると、「食」の大切さよりも大切にしなければいけないことも出てきます。
撮影というのは、みなさんはつながった一本の映像を見ていますが、現場では同じシーンをカメラの位置を変えて、何度も何度も撮り直しています。
だから食べ物のシーンとなると、セリフや表情だけじゃなく、なにを口にほおばったかもとても大事になってきます。
これを「つながり」と言います。
そこで記録係の出番です。

「セツオはさっきのセリフ、最後にちくわをほおばりながら言ってたから、次も同じようにちくわでお願いします」
「えっ?もうちくわないよ、さっきのテイクで食べちゃったから」
「えー、監督、どうしよう。つながりません」
井川監督「……あっそ。じゃあ仕方ない。ちくわはあきらめて、その前のはんぺんから撮り直そう。はんぺんならあるよね?」
「あと2枚あります」
「よし、セツオ、もう一度はんぺんからやり直して撮るよ」
「うそー、もう食べらんないよ……」
なんてことが、毎度起きるのです。

『ノッテビアンカ』のメイキングには、表のドラマ以上にたくさんのドラマがあって、いま思えばそれらが、私にとっていちばん大切な思い出になっています。

 

 
 

連続ドラマ「ノッテビアンカ」
全8話(vol.1〜8 Act.1,2,3/24回)
YouTube再生リスト

+5

このページについてひとこと。この内容は公開されません。