みなさん、こんにちは。MAMEHICO神戸・御影店長の妻のみゆきです。
先月、MAMEHICO銀座店で上演されている一人劇「脱走兵と群衆」を観てきました。
天才・井川啓央の才能を目の当たりにせよ。…なんて言うと、少し大げさに聞こえるかもしれません。
でも、この一人劇を観た帰り道や、何でもないときにふっと思い出して、「こういうことやったんや」と気づく人が、きっといると思います。
私も舞台を見終わってから、毎日少しずつ思い出して、感じたり考えたりしています。
「脱走兵と群衆」は、井川さん扮するシャンソニエのエトワール★ヨシノがひとりで立つ舞台です。
歌い、語りながら、さまざまな登場人物が現れ、物語は進んでいきます。
この舞台を観ていて感じるのは、無理に感動させようとしていない、ということ。
「わかってほしい」と価値観を押しつけもせず、私たち観客の反応を、誘導しようともしていません。
泣いてもいいし、よくわからなくてもいい。
いい曲ができても、「すごいでしょ」と誇っていない。
感動する場面があっても、その感動に頼って物語を進めようとしない。
私たちを、ただ気持ちよくさせるための作品ではありません。
この作品の着想になったと言われている、シャンソンの名曲「脱走兵」の訳詞を読んだとき、生身の人間の心の動きが、そのまま書かれていると感じられて、胸が痛くなりました。
きれいにまとめられることも、意味づけされることもなく、弱さや、みっともなさや、言葉にしにくい気持ちが、そのまま残っている。
だから読む側に「こう感じなさい」と迫ってこないのに、気づくと自分の心を重ねてしまう。
井川さんは、シャンソンの精神を、ただ引用しているわけではありません。
お客さんと舞台との距離感や、制作スタッフを未経験のカフェスタッフやお客さんに任せていること。
そして未経験でも出来るよう、とことん付き合って教えること。
舞台監督から衣装やメークまで、舞台で必要な仕事は何から何まで一人でしていること。
そんなことまで全部ひっくるめた舞台のつくり方そのものに、井川啓央という人の、ただ上手いだけじゃない、天才性が表れている気がします。
井川さんがよく言われる「消費者になるな」という言葉を、この舞台を観て思い出しました。
誰かの言葉や感情に頼るのではなく、自分の頭で考えて、自分の自由は自分で見つける。
それを、そのまま形にした舞台なんじゃないかと思います。
面白くて、大笑いしてしまう時間もあります。
でも、自分の生き方について、考えずに済む舞台ではありません。
それは「脱走兵」が特別な誰かの話ではなく、今を生きる私たちの心のどこかに潜んでいるものだからだと思います。
井川さんは、そんな時代全体を見ながら、同時に、目の前の人の複雑な心も見ている。
ひとつひとつの表現に向き合いながら、少し離れた場所から、舞台全体を見続けている。そんな人、他にはいません。
…と、ここまで力説してきましたが、肩に力を入れることなく、ふらっと立ち寄れる劇場です。
普段、舞台なんて観に行かないから…という方も大丈夫です。
初めての方にもわかるように構成されていて、予備知識なくても十分感じ取っていただけると思います。
楽しいだけの時間ではないですが、静かに、長く、深く心に残る舞台になると思います。
少しでも気になる方には、ぜひ、観ていただきたいです。

「脱走兵と群衆」
出演 / エトワール★ヨシノ
作・演出 / 井川啓央
日時: 1月29(木)、30(金)、31(土)
場所: MAMEHICO銀座



