やわらかな時間に包まれて

こんにちは!MAMEHICO東京スタッフの前島由紀です。

先日、MAMEHICO銀座店で井川さんの作品「cinemusica」が上演されました。
“映画音楽”がテーマで、しかもモリコーネ好きなミュージシャン・入日茜さんが生のピアノと歌を披露、さらに演劇もあるということもあり、映画好き・映画音楽好き・モリコーネ好きの血が騒ぎ、これは見逃せない!と、拝見してきました。

井川さんの作品にはいつも、なぜか観る人の琴線に触れ、ふと昔の記憶を呼び起こさせる力があるように思います。
それは、自分でも気づかないうちに蓋をしていた記憶だったり、忘れかけていたことだったり、子どもの頃の小さな思い出だったり。

私が初めて観た映画といえば、夏休みに父と母に連れられて日比谷の映画館で観た「南極物語」でした。
当時とても人気の映画で、小学校低学年だった私は、映画館の広さや通路までぎっしり埋まった観客に圧倒され、緊張のあまりお腹が痛くなって、何度もトイレに行っては母を困らせたものでした(笑)。
映画の内容はまったく覚えていませんが、クーラーの効いた大きな映画館と、シンセサイザーで奏でられる「南極物語」のテーマソングだけが、今でも記憶に残っています。
「cinemusica」を観ながら、そんな遥か昔の映画体験をふと思い出していました。

冒頭は『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽と共に、映像が流れます。
映画好きでなくても、一度は耳にしたことがある名曲たちが、次々と映像とともに展開されていきます。
『男と女』『シェルブールの雨傘』『ディア・ハンター』、そしてジブリ映画……。

映画の中で、登場人物たちが映画を観るシーン。
老若男女が自由に、楽しそうにスクリーンに向き合っている。
ある場面では笑い声も起きて、かつてあったであろう、にぎやかな映画館の風景がそこに広がっていました。

物語の舞台は、閉館間近の映画館。
深い傷を抱え、人生を半ば諦め、抜け殻のようになってしまった掃除夫のおじさんと、希望に満ちつつも、やはり傷を負っている若い女の子が出会います。
2人のあいだには、過去に深い確執があります。
それでも、年齢を超え、古い映画や音楽を通して、少しずつ心を通わせていく。

おじさんの好きな映画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』。
「アマポーラ」の音楽が流れる中、女の子がバレリーナの格好で踊るシーンが映し出され、おじさんは彼女に、自分がその映画のどんなところを好きなのかを語ります。
過去に2人の間に何があったのか──それよりも、いま、映画の話をするおじさんの姿に、女の子は真実味を感じ、彼を信じていくのです。

入日茜さんのピアノと、まっすぐで澄んだ歌声が会場に響き、2人は少しずつ寄り添い、心を溶かしていくようでした。
ピアノ演奏と生の歌声に加え、チェロの生演奏も。
これは舞台なのか? 映画なのか?──人生で初めての、贅沢すぎる体験でした。

劇中、「なんかうまくいかない時、つらい時、映画音楽に助けられてきた。だから、映画音楽が好きなんだ」と、女の子がさらっと語る場面があって、なぜかグッときてしまいました。
それでも、楽しく生きていく。
観終わったあと、そんな希望のメッセージが聞こえてきたような気がしました。

とにかく、贅沢な時間。
観る人によって感じ方が異なり、観るたびに新しい想いが湧き上がる作品だと思います。
また再演されることを、心から願っています。
次に観るとき、自分の心にどんな情景や感情が浮かぶのでしょう──そのときが楽しみです。

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