やさしさが香るお茶

こんにちは。MAMEHICO東京スタッフの草ヶ谷美香です。

何年か前のこと。井川さんがたまたま見つけて買ってきた九州の「釜炒り茶」がとても美味しくて、スタッフの間で日常茶として飲まれるようになりました。
飲みやすく、すっと体に馴染むようなお茶で、これはぜひMAMEHICOのメニューにも取り入れようという話に。

日本の緑茶のほとんどは「蒸し製法」で作られています。
摘んだ茶葉をすぐに蒸して酸化を止めることで、鮮やかな緑色とすっきりとした味わいを生み出します。
一方、この「釜炒り茶」は、鉄釜で炒って酸化を止めるという製法。
火を使って茶葉の水分を飛ばしながら発酵を抑える、昔ながらの技法です。

釜炒り茶の特徴は、なんといってもその香ばしさ。
湯を注ぐと、ほんのりとした「火香(ひか)」が立ち上り、渋みはやわらかく、軽やかな甘みが口に広がります。
蒸し茶が「濃く深く」なのに対して、釜炒り茶は「香り高くやさしい」印象。
中国や台湾に近い製法で、日本国内でも作っている産地はごく限られています。

この珍しいお茶が、なぜこんなにも美味しいのか──その理由を知りたくて、私ひとり、糸島のお店を作っている合間に、少し足を延ばして訪ねてみました。

場所は、九州地方の山間部にある小さな町。
のどかな山道を車で登っていくと、茶畑に囲まれたお茶屋さんが現れました。
標高の高い場所で有機栽培された茶葉を、自社工場で製茶からパッケージまで一貫して手がけています。

訪れたのは、ちょうど茶摘みの最盛期。
手摘みと機械摘みの両方で新芽を収穫し、すぐに製茶にかけるため、工場もフル稼働です。
この時期は全国から有志が集まり、数週間この地に滞在しながら働いているそうです。

事務所で待っていると、やがて掃除を終えた従業員の方々と社長さんが作業着姿で戻ってきました。
「今日はようけきれいになったっちゃね!」と笑顔で声をかけ合う様子から、職場の雰囲気の良さが自然と伝わってきます。
こういう場所は、たいてい美味しい。
井川さんと一緒に畑や蔵元、生産者さんを巡るなかで、私たちが得た経験則のひとつです。

社長さんは4代目。この地で100年以上続くお茶作りを受け継いでいます。
茶園では20〜30種ほどの品種を育てていて、それぞれ葉の形や色、性質が少しずつ異なります。
多様な品種を扱うことで、病害虫の被害を分散できるほか、緑茶に向くもの、紅茶や烏龍茶に向くものなど、仕上がるお茶の個性も広がるとのこと。
枝や茎まで使ったお茶など、新しい製法や商品の開発も盛んで、売店にはバリエーション豊かなお茶がずらりと並んでいました。

「海外の人はすごく熱心で、写真ば撮るのに時間がかかるとよ」
と笑いながら話す社長さんの言葉に、この場所がどれだけ多くの人に愛されているかを感じました。

「身体に負担のないお茶を作るように心がけている」という言葉どおり、ここで働く人々の誠実さと穏やかさが、お茶の味にそのまま表れています。
和やかな空気や、日々の食卓を大切にする姿勢など、MAMEHICOが大事にしていることに近いものが、ここにもあるなと私は感じました。

初めて伺ったとは思えない居心地の良さで、話を聞いたり、あちこち見せていただいたりしているうちに、あっという間に半日が経っていました。
「今度はぜひ泊まりがけでどうぞ」と見送られ、いつかMAMEHICOのみんなとも一緒に訪ねてみたい──そう思いながら、名残惜しく山を下りました。

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