たまたま、入日茜さんの歌と出会いました。
彼女はボクと同世代のシンガーソングライターです。
初めて彼女の歌を聴いたとき、
その歌詞とその声から、
赤と青、白と黒、大人と子供、男と女、
善と悪という、
対極にあるものたちをつなぐグラデーションを感じたんです。
それぞれの対極の間には無数の色合いや感情が存在する。
その微妙な違いこそが、本質ではないかとボクは思っているので、
早速、会いたいと連絡を取りました。
会って話をしてみると、彼女が音楽を始めたきっかけは、
映画音楽への憧れからだと語ってくれました。
それで、「cinemusica」という舞台を企画し、
この8月に上演したのでした。
井川
ところで、今年の8月にMAMEHICOで映画音楽と入日さんの歌、そしてお芝居と、3つの世界を組み合わせた「cinemusica」をやりましたけど、正直、どんな感想を持たれましたか?
入日
はい(と考える)。
井川
あっ、「cinemusica」をご覧になってない方が、
会場に多いので簡単にご説明差し上げると。
ボクの創作したお芝居、古今東西の名作映画、入日さんの音楽を、同時にお見せする舞台をやったんです。
入日
はい。井川さんが総合プロデューサーでありつつ、
お芝居の脚本や演出、美術まで、
なにからなにまで全てやってくださいました。
今日、そちらの席で見に来てくださってる永井さんと、
MAMEHICO のスタッフのレイナちゃんが、
お芝居の部分を担ってくれて。
真ん中の大きなスクリーンで映画をお見せしながら、
私はピアノの前で、自分の歌を歌いました。
井川
はい、そうでした。
入日さんの音楽、映画と映画音楽、ボクが描き下ろした寸劇、それぞれ三つの違う物語が進行するんですね。
この三つを編むようにして、だけど一枚の布になるように、工夫して作った舞台です。
入日
「cinemusica」で、わたしの夢が一つ叶ったんです。
井川
そう、夢が、はい。
入日
私はいつも、シンガーソングライター入日茜として、
ピアノの前で弾き語りスタイルで歌ってきたわけじゃないですか。
井川
それは、もちろん。
入日茜のライブだから、入日茜が主役なわけですね。
入日
はい。
だけど、そうではないもの。
私ではない主人公がいる、ある物語と、私の音楽が合わさることで、新しい世界が生み出される、んー、それはライブなのかなんなのか、具体的には思いつかなかったけど、そういうものがずっと創ってみたかったから。
井川
その夢が「cinemusica」で叶ったと?
入日
はい、叶いました。
井川
入日さんは、キャリアは長いわけじゃないですか。
入日
(恥ずかしそうに)22 年、になります。
井川
長い間のファンもおられるから、
入日茜を主人公にしなくていいのかと、
最初はちょっとためらいもあったんです。
だけど入日さんは、「私は表ではなく、後ろに引っ込んでいたい部分もあって」とおっしゃるから。
入日
はい。
井川
引っ込めました。
入日
はい(笑)
私を見てー、っていうタイプじゃないです。
井川
だから、入日茜を主人公にしないライブにしようと。
入日
映画音楽が好きなのは、映画音楽が主役になるってことはないからかもしれません。
もちろん自分を見てっていう部分もあるんですけど、
そのままの自分というより、自分の音楽を通して、
自分の内面を表現したいと思うタイプで。
井川
ボクのYoutubeに入日さんの動画が突然現れて、
ボクがなんとはなしに、
それを聞いたのがきっかけなんですけど。
最初に聞いた時、入日さんは、
絶対に映画音楽やサントラに
影響されてるんじゃないかとわかって。
それでこちらから声かけたときに、
そのお話をしたんでした。
入日
そうです。
井川
ボクも映画音楽が好きで、特にモリコーネとか、
フランシス・レイとか、
日本なら日向敏文さんとか、吉俣良さんとか、
そういう映像を裏で支える作曲家に
影響されたとこあるんで、
なんか通じあったっていうか。
入日
私は井川さんに声をかけてもらうまで
MAMEHICO の存在も知らなかったんです。
だけど井川さんに初めて会った時から、
「あっ、私のこと分かってくれるヒトがいた」
って嬉しくて。
変な話ですけど、そういう出会いがあるって、
私はずっと心のなかで願っていたから、
だから出会えたんじゃないかと思います(笑)
井川
そういうところありますよね。
入日さんは、ぱっと見の印象は可愛らしい少女で。
いつもニコニコ、ふんわりな印象ですけど、
これはかなり芯のある女だなって。
入日
親しいヒトから、頑固だよねってよく言われます。
一同
ハハハ。
井川
これは一般論ですけど。
願うだけではダメ。願っているなら行動しなさい、
っていうのが世のセオリーですよ。
ところが入日さんは、
「心のなかで願っていれば、
会うべきヒトと、然るべき時に出会えるのだ」
っていう芯があるのがわかる。
願うっていうか、祈るっていうか、
そういう力が強いなって感じるんです。
入日
心の奥で深い出会いを望んでいたら出会う、
それは信じているかもしれない。
井川
これって、陽キャの自己肯定感ではなく、
陰キャの自己肯定感ていうか。
入日
その表現、言い得てる(笑)
井川
だけどこの歳までその純粋さを、
よくぞ今日まで保ちましたね。立派だなぁ。
入日
ただ、成長してないだけかもしれないけど(笑)
私、ヒトの思いとかそういうものを、
結構受け取っちゃう方っていう自覚はあるんです。
ヒトから強く影響を受けやすい体質なので。
だから他人に対して、バリアを張ってるとこあって。
井川
そのバリアで我が身を守ってきた?
入日
そうかもしれない。
影響をあんまり受けないようにしてます。
井川
でもね、ぱぱっと行動するより、
見えないものを信じ続ける、って大変なことですよ。
入日
見えるものだけで世界を見てしまうと、本当に薄っぺらくて、生きてることを肯定できない気がするんです。
見えてるものの後ろに、ちゃんとした世界が隠れているとしたら、面白いなって。
私、星読みとかも好きなんです。
井川
へぇ。
入日
11 月20 日に、冥王星が山羊座から水瓶座に移動すると言われてて。
隣り合う星座同士ってすごく性質が違って、
山羊座は土の星座で、土地とか権力を所有することに重きが置かれていたんですけど、
水瓶座は風の星座で、ネットワークとかシェアとか、
所有する生き方から自由な生き方にシフトする流れになると。
井川
ボクは風の時代に活躍すると噂されてます(笑)
入日
私、しゃべるのが苦手なんです(笑)
井川
言葉を過度に信じてないってことでしょう。
だから音楽にしてる。
入日
はい。
ある情景を思い描きながら私がピアノを弾いたとしても、聞く側はまったく違うものを思い描く。
それが音楽の良さだと思っていて。
井川
はい、そうです。
入日
明確にした歌詞を、私の声で歌う。
そうすると、歌詞という言葉のほかに、
音に委ねる部分もあって、それで伝わるというか。
まったく言葉がなくていいとは思わないけど、
言葉に全てを委ねるんじゃなくて、
やっぱり音楽があるのが、わたしにはちょうどいい。
井川
ボクはこの前、会ったときにも言いましたけど、
入日さんって、心のなかに、
ちっちゃな老子があぐらかいて座ってるなって。
入日
あぁ、はい、道(タオ)の話。
井川
古代中国の老子の思想に、
「道(タオ)は常に無為にして、而も為さざるは無し」というのがあって。
無為自然。ちっぽけな人間は、作為を持たず、自然体のままでいなさいよと。
自分の信じた道(タオ)に沿って自然体でいたならば、
然るべきところに必ず行きつくんだみたいな教えです。
ボクは老子が好きなんで、そう在りたいと思ってはいるけれど、なかなかそうはできないですよ。
うまくいかないと、作為的に他者をコントロールしたくなる。
ところが入日さんはジタバタせず、じっとしているでしょ。
ああ、ちっちゃな老子が体の中で座ってるんだなと。
今月末になりますが、11月30日の土曜日に、
8月の「cinemusica」の再演をやります。
ねっ。
入日
はい。
今回は昼と夜の2回公演で、昼はチェロ、
夜はアコーディオンの方をゲストにお迎えしてお届けします。
約2時間のあいだ「cinemusica」の物語の中に一緒に入っていただいて、終わった後は、それぞれのご自分の人生という物語に、続きを感じていただけたらいいなと思っています。
みなさん、ぜひいらしてください。
井川
はい、入日さんに興味がある方は、ぜひ、来てほしいですね。
今夜は、はなしが苦手なのに(笑)、
お話しに来てくれてありがとう。
入日
こちらこそ、ありがとうございました。
一同 (拍手)