著者: 井川啓央

懐かしい未来

川崎、横浜で育ったボクは、雑木林で遊ぶのがとても好きな子供でした。明るく、整然と整備された林が子供の頃は、少し残っていて、その光景はとても美しかったのを覚えています。けれどいまはもう、子供の頃に見た雑木林は、どこにも見当たらなくなってしまいました。 淋しいなと思っていたところに、国木田独歩の『武蔵野』を読みました。明治に書かれた短編集です。その一遍に、雑木林の記述がありました。 「ずっとずっとその

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誘惑にご用心

カフエ マメヒコを始めたのは2005年の7月1日のこと。その2年後には、渋谷の宇田川町にマメヒコ渋谷店を作った。それからほどなくして影山知明さんに頼まれて、クルミドコーヒーを西国分寺に。そのあとすぐに、とんかつ屋とパン工房と純喫茶をひとつにした「マメヒコパートⅢ」を宇田川町に作った。途中、とんかつ屋を任せていた江尻のおじさんが失踪して、マメヒコ飯店に改修。その矢先、立ち退きにあった(そこは今、アベ

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らっきょうの皮を剥くように

6月初旬に漬けたラッキョウが、ほどよくいい感じになってきた今日このごろ。 ボクが好きで毎年漬けていたラッキョウの甘酢漬けですが、今年は神戸・御影の売店で実施されている「カレー祭り」で販売することになりました。恩着せがましく言うこともないですが、このラッキョウ、実はすごく手間がかかってるんです。 まず、ちょうど良い大きさのラッキョウを探すのが大変です。東京で見かけるラッキョウは、鹿児島、鳥取産が有名

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圧倒的な量

暑い夏の日、クーラーの効いた部屋で、自分で淹れたアイスコーヒーはとても心地よい。今日はそんな夏の定番、アイスコーヒーについてのはなしを。 アイスコーヒーは熱いコーヒーを冷やすものと思っているでしょうけど、「コールドブリュー」と「アイスドコーヒー」の二つのスタイルがあるんです。 コールドブリューというのは、いわゆる水出しコーヒーという抽出方法のこと。ダッチコーヒーとも呼ばれたりして、西国分寺のクルミ

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お店とはボクの子供

ボクは子供が大好きです。できることならたくさんの子供たちと、日々過ごせたらいいのに。そんな願いも虚しく、ボクには19歳の娘がひとりいるだけですし、少子高齢化の進んだ東京では、そもそも子供が周りにいません。なんだかな、という思いです。 子供と一口に言ってもいろいろですけど、とりわけ3歳児までの、次になにをやらかすかわからない、果たしてなにを考えているのかさっぱりわからない、けど、よくよーく観察すると

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どっちがいいのか

みりんには「本みりん」と「みりん風調味料」があります。「本みりん」はもち米、米麹、焼酎を原料として発酵させた調味料で、アルコール度数が約14%くらいある。だから、酒類販売許可のあるお店でしか販売できません。 一方で「みりん風調味料」は、糖類、アルコール、酸味料、調味料などを混ぜ合わせて作られたものです。本みりんに比べたらアルコール度数も低い。だからどこでも売れます。戦後、経済的に厳しい時期、安くて

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仕掛けるカフェになりたい

2005年、東京の三軒茶屋でマメヒコを始めた頃、3年間はほとんどお客さんは来てくれませんでした。明けても暮れても、ただ待つばかり。このまま潰れてしまうんだろうと、ため息の日々でした。 それから渋谷にお店を出したんですけど、そのときはさらにお客さんは来ませんでした。店の一部の電気を落として、縮小して営業していたほどです。電気代がもったいないことと、広い店に誰もいないと、かえって空気が悪くなるからです

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観音菩薩のように

MAMEHICOの裏にいると、「どうしてこういうことをしたのか?」と先輩が後輩を問い詰める場面が多い。 問い詰める先輩は「なぜか?」と失敗の理由をたずね、問い詰められた後輩は、「いや、はい、すいません」と謝る。これってちっとも会話が成立してません。 だけど、だいたいMAMEHICOの裏ってそんな感じです。失敗した理由を聞かれたって、答えようがない。理由がわかってないから失敗したんで、理由が明確にわ

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麦畑を走って

麦畑が好きです。赤く実った穂は風に揺れると、幻想的なパステルカラーの波を作ります。5月終わりから6月初めにかけて、福岡の糸島でも、群馬、桐生周辺でも、一面に波打つ麦模様はとても美しい。 糸島の麦と群馬の麦。よーく見ると違います。糸島の麦の半分は大麦で、ビールメーカーとの契約栽培です。ほぼ全量がビールの原料となります。それに比べて群馬の麦は、ほぼ小麦ですね。 日本で小麦を作り始めたのは、主に江戸時代

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水のようなヒト

チェーン店のカレーライス屋さんがあって、それをフランチャイズ展開している会社の社長に、22歳のアルバイトの女性が就任したと、WEBニュースに載っていました。ボクはそのお店に行ったことがないのだけれど、その彼女のインタビュー記事を読んでいて、「おや、上善如水」と思ったんです。 なんでも。彼女は、高校生のときにそのチェーン店にアルバイトで働き始め、シフトに入っていない日でも、休憩室に遊びに行ったりして

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「ベアトリネエチャン」の上演

6月に銀座で上演する演劇『ベアトリネエチャン』の脚本を書き上げ、ただいま稽古真っ最中だ。大正時代の浅草が舞台で、地震が来るという信憑性の高い情報を聞いて劇団員が右往左往するという話。 今回の劇の日程は、ボクが作・演出を務めた、昨年末の舞台「ぽうく」の再演する予定だった。ところが主演の俳優が出られなくなり、急遽、残るメンバーのために書き下ろしたものだ。 日程が迫る中、出演するメンバーは演劇の未経験者

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プロフェッショナル

MAMEHICOではご飯といえば玄米です。店内のドライカレーはもちろんのこと、ハレの日のイベントで作るちらし寿司でさえ、いまではすべて玄米です。玄米に食べ慣れてしまうと、白米だと「疲れた感じになる」とスタッフが言うのでなんでもかんでも玄米です。 まず良いお米を選びます。コシヒカリとササニシキはそれぞれ別々の所から送ってもらいます。甘くてもっちりのコシヒカリ、香ばしくてさっぱりなのがササニシキ。味だ

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