連続ドラマ「ノッテビアンカ」のこと⑦vol.3-1

みなさん、こんにちは。MAMEHICOの星野美津子です。
年明けからM=HicoでYouTube連続ドラマ『ノッテビアンカ』を紹介しています。
ドラマでは、大向トシコ役を演じています。

『ノッテビアンカ』は、ただの主婦だった私が女優として初めて取り組んだ井川作品です。
私は15年くらい前からカフェでたまにお茶をするくらいのお客だったのですが、コロナをきっかけに距離が縮まりました。
MAMEHICOという好きな場所を一緒に創りたいと、井川さんやその仲間とイベントに参加したりして、いろいろと取り組むようになりました。

そのなかで「井川さんが連続ドラマを作るので、星野さんそれに出ませんか?」というお話をいただいたのです。
『ノッテビアンカ』に出ませんかとオファーを受けたとき、演技というものをしたことがなかったし戸惑いました。
だけど、井川さんたちがやっている取り組みは興味があったので、やってみたいという気持ちは強くありました。
やらせてくださいとお引き受けし、すぐに撮影が始まりました。

ただの主婦が連続ドラマに出る!?
全く何もわからないまま、ただ言われたとおりのことをやる。最初は、そんな状態でした。

さて、この「vol.3 Trigger/Act.1」は、物語が急展開します。
劇中のトシコは家族が大変な状況になります。

台本を読んだ時、「そんなことじゃダメだろう!トシコ!」と思いました。
実際に私にもケンタのような年頃の息子がいますし、トシコと私は立場はよく似ています。
けど私はトシコの対応にイライラするのです。トシコが好きになれません。
それでも自分をトシコに重ねて演じてみようとすると…、感情が溢れて、まったくコントロールできなくなってしまうのです。

井川さんは脚本を書きますが、現場ではチーフのカメラマンなので、現場では撮影に対しての細かな指示が飛びます。

「星野さん、この台詞のあと左に1cm重心を移して、泣いてる顔は、カメラに向かってもっとしっかり見せて、でもこれみよがしには見せないでね」と。

脚本家による感情の演出よりも、カメラマンとしての画の注文がやたら多いのです。
だから役に憑依して感情のままやっても、「写ってないよ」と全然OKが出ないのです。
それにしてもドラマを作っていた3年前を振り返ると、とにかく夢中で臨み、よく一年間もやったなと思います。

ちょうどvol.2が取り終える頃、井川さんと面と向かって話す機会がありました。
トシコをどう演じていいかわからないと私がぼやくと、井川さんは「星野さんは演じてるとき目の奥が暗いのわかってる?だからトシコも星野さんの暗さに合わせて、どんどん暗くなっていってるんだよ?このままじゃトシコは途中で消えていなくなるかもね」そんなことを言われて私は驚きました。

えっ?台本が暗いから暗く演じていたつもりだったけど、私の目の奥を観て、私が感じている不安を汲み取り脚本を書いていたなんて!井川さんて鋭すぎて怖い。
でもたしかに、私は演技なんてそもそもできないし、ドラマの役になりきろうとするんじゃなく、その役を、つまりトシコを、私のほうへ手繰り寄せるということを求められているのかも知れない。
それには、もっと井川さんやスタッフを信頼し委ねて、鎧を外さなくては今後やっていけないなと思うようになりました。

セツオとトシコが公園を歩くシーンは、そんなふっきった気持ちで臨めた思い出のシーンです。
このシーンを撮り終えたとき、やっと「みんなで一緒にひとつの作品を創っている」と嬉しかったことを覚えています。
そしてそれから少しずつ鎧を脱げるようになり、そしたら井川さんも私を少しずつ信用してくれて、どんどんトシコの役柄が変わっていったのです。それは今後、観ていただければわかります。

今『ノッテビアンカ』を観返すと、コロナ禍の閉塞感が写っていて、不器用で不恰好で一生懸命な私が写っています。
そして少し鎧を外すことを覚えたから私の人生は大きく変わり、いま生まれ育った桐生で、紫香邸の庭を眺めていられるんだなと思うと、胸の奥が熱くなるのです。

 

連続ドラマ「ノッテビアンカ」
全8話(vol.1〜8 Act.1,2,3/24回)
vol.2 Trigger Act.1 こちらから
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