みなさんこんにちは。 MAMEHICO神戸・御影店長の渡辺 臣将(しげまさ)です。
神戸のお店が始まる前のはなし。
たしか何かのついでに東京に遊びに行ったとき、MAMEHICOのファンだった妻・みゆきに連れられて、今はなき「カフエマメヒコ公園通り店」に初めて行った。
僕はそのとき、MAMEHICOのことをまったく知らなかったけれど、「おしゃれなカフェがあるから!」って、みゆきが言って聞かない。
仕方なく渋々ついて行ったのをよく覚えている。
コロナ前の渋谷は、休日だったこともあり、人でごった返していて、スクランブル交差点で人の波に飲まれ、関西人の僕はもうヘトヘトだった。
けれど、MAMEHICOの扉を開けた瞬間、不思議なくらい静かで、穏やかな空気がそこには流れていて、そこだけ別世界のような空間が広がっていた。
優雅なクラシックをバックに、やわらかい光が差し込む店内。
10mくらいはありそうな無垢の木の立派な長くて大きなテーブル。
その上には、大ぶりのドウダンツツジが生けられていて、ふわりと立ちのぼる珈琲の香りに包まれて、都会の喧騒を忘れてしまうような、そんな空間だった。
「なっ!やっぱ言うたとおりおしゃれやろ?」 と、嬉しそうなみゆき。
語彙力のなさには少し呆れながらも、メニューを手に取る。
深煎珈琲、浅煎珈琲、ふむふむ。そして、黒豆珈琲?秋煎珈琲??美味珈琲???…なんだこれは! (当時からMAMEHICOの珈琲は、なかなかクセのあるネーミングだった。笑)
よく分からなかったので、ショートカットの女性店員さんにおすすめを聞いてみたら、「深煎珈琲がMAMEHICOの定番です」とのこと。 じゃあそれを、ということで注文。
「なぁなぁ、あの店員さん、MAMEHICOのYouTubeに出てた人やで!ホンマに居てるねんなぁ!」と、勝手に興奮するみゆきを横目に、サーブされた珈琲をひとくちすする。
「美味しい、なんやこれ!」
深煎りなのに、スッキリしている。エグミや雑味がまったくない。
かといって薄いわけでもなくて、ちゃんと苦味とコクがある。
しかもその奥に、チョコレートのような甘さも感じる。
え、これ砂糖入ってないよな?と、感激して思わずさっきの店員さんに話しかけてしまった。
「MAMEHICOの珈琲は、たくさんの量の豆を使って、スッキリ淹れる工夫をしてるの。 甘さ?そうですね、この深煎りは自慢のブレンドなんです。老舗の札幌の焙煎所から、わざわざ送ってもらってて」
そう教えてくれたのが、今では僕たちの指導係をしてくれている、東京スタッフの日野さんだった。
そしてあれが、僕にとってのMAMEHICOの「忘れられない珈琲」との出会いだった。
MAMEHICOの珈琲豆は、北海道・札幌の菊地珈琲さんのもの。
道内屈指の珈琲一筋40年、プロ中のプロが焙煎する豆に、MAMEHICO代表の井川さんが惚れ込んで、北海道以外には卸していなかった豆を「菊地さんの味を守る」という約束で、特別に卸してもらえるようになった。
井川さんにとっても、それは「忘れられない珈琲」だったわけだ。
しばらくして神戸のお店の開店が決まったとき、僕たち夫婦は札幌に飛んだ。
神戸にも特別に豆を卸してもらえるように、東京と同じく「焙煎後10日以内の豆しか使わない」と、菊地さんと約束した。
菊地さんいわく、
「いい豆ってのはね、粒が大きいぶん、渋みとか酸味のもとになる成分もそれなりに含んでるんです。だから、それを抜くために、焙煎を二度やる。途中で一度釜から上げて、しっかり冷ましてから、もう一度焙煎する。手間は倍かかりますけど、それでようやく、雑味のない、すっきりした味になるんです。大変だけど、それでもやるんですよ。うまい珈琲を飲んでもらいたいですからね」
そう言って、にかっと笑う菊地さん。
そんなふうに、手間暇を惜しまない豆を、僕たちは扱わせてもらっている。
僕にとっても、井川さんにとっても、あの一杯が「忘れられない珈琲」になったように、今、神戸で淹れているこの一杯が、誰かの「忘れられない珈琲」になるといい。
そう願いながら、今日もまごころ込めて、丁寧に淹れているのです。
