晴れ渡った空より、夕暮れの、
 紅に蒼が溶けた空のように

 複雑な色合いを見ると、
 ボクはそちらのほうが美しいと思う人間です。

 

マメヒコ文化部のミナエです。

井川さんの書籍「桜の木にバナナの実」から、
お話をひとつご紹介いたします。

11/25(土)に、この本にまつわる
井川さんのトークイベントを開催します!
詳細はこの記事の最後をご覧ください!

***

複雑な顔のわけ
 (「桜の木にバナナの実」より)

「坂ノ途中」という
八百屋さんと付き合いがあります。
テレビプロデューサーのお客さんから、
「井川君に会ってもらいたい青年がいる」
と社長の小野君を紹介されたのがきっかけです。

それから「坂ノ途中」の野菜と、
北海道のハタケマメヒコの野菜を使ったお食事会を
月に一度の恒例としてやりましょう、
となって、かれこれ一年続いているわけです。

「坂ノ途中」は拠点が京都にあって、
個配を主とした八百屋さんなのです。
それが代々木八幡の住宅地のはずれに、
小さな、ほんとに小さなお店を持つことになりました。

そこには倉田ちゃんと原ちゃんという
二人の女性スタッフがおります。

恒例の食事会が近くなると、
倉田ちゃんと原ちゃんが、
ボクの事務所に、御用聞きに来るわけです。

「さて次回のお野菜は何にいたしましょう」

最初の頃、倉田ちゃんは、
そのなんていうかなー、
御用聞きなのに、御用聞きとしての、
懐に飛び込んでくる感じ、というのが全然しない。

「いま私どものご用意できる野菜はこれこれです」

プリントアウトした味気ない
リストを見ながらうつむいている。

さぁ、この中から注文してください、
という感じで、売ろうという思いが伝わらない。

「それは見ればわかるよ。だけどさー、なんかそのさー、これはいかがですか、おいしそうでしょー、みたいな、そういう押し売りみたいなそういうのないのぉ?」

なんて余計なことをボクも言ってみたりする。
それでも彼女、あまり表情を変えることなく、

「そうですねー、どんなのがお好みですか?」

とリストを繰り返し読み進めていくという感じなのです。

まったく商売っ気のない
若い女の子二人に任せて、
東京で店を切り盛りさせるっていうんだから、
小野君も思い切るなー、と
なんだが感心したりしたのでした。
(東京の商売はなかなか甘いもんじゃないからねー)

新しい店を立ち上げるのは、
とにかく忍耐が要るんです。
それはボクもよくわかる。
真っ当にやるならなおさら時間がかかる。

昨日。
野菜を持って、倉田ちゃんが来ました。
いつもの御用聞きです。

一通り話しを終えた帰りしな。
倉田ちゃんは、静かな表情でこう言ったのです。

「井川さん、三月三十日、おかげさまで代々木のお店は一周年を迎えました」

「へぇ、そうなんだ。おめでとう」

「朝からお客様がたくさんいらしてくれて。お花や差し入れを持ってきてくださいました。お買いあげもたくさんしてくださり。あぁ、お店は愛されてるんだって」

「はい」

「ワタシも原田も」

「うん」

「泣かないようにしよう、泣いたらだめだよって。お店の裏で、もうなんだか胸一杯でした。その日は、はい」

彼女はそう言うと一息ついて、こう言った。

「三月の売り上げ、初めて、初めてねっ、京都のお店に勝ったの。ワタシたちの代々木が、京都に勝ったんです。勝てたんです」

一月、二月がひどかったから、
ぜんぜん喜べないんですけど、
と照れながらそう言い残すと、
ささっと帰っていきました。

ほんの一瞬、
「やったの!ワタシ、勝ったの!」
と赤ら顔をした倉田ちゃんに、
少し胸を打たれました。

あぁ、そうか、あなたは。
あなたのあの無表情は、
悔しさの現れだったのか。

なにをしたらいいのかわからない不安、
自分の未熟さ、やる気の空回り。
あふれるものを抑えようと、
あなたは懸命に無表情を作っていたのか。

けれどあれは、無表情ではなく、
複雑な顔だったのかと。

晴れ渡った空より、夕暮れの、
紅に蒼が溶けた空のように、
複雑な色合いを見ると、
ボクはそちらのほうが美しいと思う人間です。

***

何かに挑もうとしているとき、
私はそのことを隠してしまうところがあります。

目の前の不安や恥ずかしさ、
自分への期待や、空回り。

そういうものを他人に見せまいと
隠してしまったりします。

皆さんもそんなことってありますか?

溢れそうなものを隠そうと
自分では平然を装っているつもりでも、
その顔はとても複雑な顔になっている。

無表情に似た、複雑な顔になっている。

井川さんはヒトの顔色に敏感なので、
そんなヒトたちの、複雑な顔の奥にあるものを
すぐに見つけてしまいます。


「桜の木にバナナの実」著者、井川さんのトークイベント!!

▽日時
11月25日(土)
start 19:00

▽場所
マメヒコ公園通り店
 東京都渋谷区神南1-20-11 造園会館2階
 03-6455-1475

▽参加費
無料(お飲み物等のご注文をお願い致します。)

お申し込みはこちらから♪

「桜の木にバナナの実」井川さんのトークイベント開催!
マメヒコの井川さんの書籍、 「桜の木にバナナの実」をご存知でしょうか? ご近所さんの皆さんはきっとお持ちですよね! 刊行時には、嬉しいご感想も届きまし...

井川さんがお話しするイベントは、
いつもとっても面白い会になるんです。

「桜の木にバナナの実」を
お持ちの方もそうでない方も、
 是非ご参加くださいね!

お申し込みお待ちしております!

『桜の木にバナナの実』
著者・装画 井川啓央
1,000円(税込)

マメヒコ各店舗にて販売中です!
下記サイト(BASE)からもご購入いただけます!

2+
http://mamehico.com/wp-content/uploads/IMG_6455-1.jpghttp://mamehico.com/wp-content/uploads/IMG_6455-1-150x150.jpgmamehico井川さんの本音 晴れ渡った空より、夕暮れの、  紅に蒼が溶けた空のように  複雑な色合いを見ると、  ボクはそちらのほうが美しいと思う人間です。   マメヒコ文化部のミナエです。 井川さんの書籍「桜の木にバナナの実」から、 お話をひとつご紹介いたします。 11/25(土)に、この本にまつわる 井川さんのトークイベントを開催します! 詳細はこの記事の最後をご覧ください! *** 複雑な顔のわけ  (「桜の木にバナナの実」より) 「坂ノ途中」という 八百屋さんと付き合いがあります。 テレビプロデューサーのお客さんから、 「井川君に会ってもらいたい青年がいる」 と社長の小野君を紹介されたのがきっかけです。 それから「坂ノ途中」の野菜と、 北海道のハタケマメヒコの野菜を使ったお食事会を 月に一度の恒例としてやりましょう、 となって、かれこれ一年続いているわけです。 「坂ノ途中」は拠点が京都にあって、 個配を主とした八百屋さんなのです。 それが代々木八幡の住宅地のはずれに、 小さな、ほんとに小さなお店を持つことになりました。 そこには倉田ちゃんと原ちゃんという 二人の女性スタッフがおります。 恒例の食事会が近くなると、 倉田ちゃんと原ちゃんが、 ボクの事務所に、御用聞きに来るわけです。 「さて次回のお野菜は何にいたしましょう」 最初の頃、倉田ちゃんは、 そのなんていうかなー、 御用聞きなのに、御用聞きとしての、 懐に飛び込んでくる感じ、というのが全然しない。 「いま私どものご用意できる野菜はこれこれです」 プリントアウトした味気ない リストを見ながらうつむいている。 さぁ、この中から注文してください、 という感じで、売ろうという思いが伝わらない。 「それは見ればわかるよ。だけどさー、なんかそのさー、これはいかがですか、おいしそうでしょー、みたいな、そういう押し売りみたいなそういうのないのぉ?」 なんて余計なことをボクも言ってみたりする。 ...