• ゲーテ診療所
  • チャンネル
  • ウーダ劇場
  • コーヴァイヴ
  • まめひこさんご近所さん
  • WEBショップ


2009/11/02

遠軽のとうさん 第一話

01.jpg
長谷川清繁  昭和10年、遠軽生まれ。(写真中央)
貝豆やパンダ豆、ビルマ豆など昔ながらの地豆を扱うべにや長谷川商店の二代目。

平間正一   昭和5年、中湧別生まれ。(写真右)
上湧別に住み、先代より長谷川商店とつきあいのある農家。無農薬で地豆を作っている。


服部行夫     
大正元年、遠軽生まれ。(写真左)
瀬戸瀬地区に、馬とともに暮らしている。馬の堆肥を使い昔と変わらぬやりかたで営む農家。

たとえば、想像して欲しい。
あなたが無人島に漂流したとする。

島には荒涼とした野原だけがある。
パパイヤやバナナなどとは無縁の北の島だ。

13-2.jpgもうじき死ぬ。間違いなく死ぬ。
こんなに腹ぺこなことは、人生始まってはじめてのことだ。
すっかり絶望していたところ、息子の上着のポケットをまさぐるとなにやら粒粒とする。
なんだこれは。
突っ込んだ手を引っこ抜き、手のひらを広げると、驚いたことに30数粒の豆がある。
言い忘れていたが、幼き娘や息子も流れ着いた。

そこで。

あなたは食うのを我慢し、この豆を殖やそうと思い立つ。
そう思ったのだから、固くなった土をせっせと耕さなければならない。
海岸にクワがたまたま落ちていたという奇跡に恵まれていなければ耕すことすらできなかった。
捨てる神ありゃ拾う神あり。神のご加護に感謝しよう。

やわらかく耕した土は、水はけのいいように畝を作ろう。
そして等間隔に豆を植えよう。
植えてみた。

やがて。

豆から芽が出る。
中には芽の出ないものもある。それは坊主という。
がっかりしても仕方ない。生き残ったものを手厚く育てなければならない。
出た芽を大事に大事に育てる。

そのうちに。
13-1.jpg雑草が生えてくる。
ぐんぐん生えてくる。
ぐんぐん、ぐんぐん生えてくる。
ぐんぐん、ぐんぐん、ぐんぐん生えてくる。

あっという間に豆なぞ見えなくなる。

慌てたあなたは、雑草を駆除しようとする。
除草剤などないから、手でせっせと引っこ抜く。
カルチという便利な道具が落ちていればよいが、ご都合のよい奇跡は現実ではおこらない。

だいいち暇なのだから手で抜けばよい。

そのうちに。

ツルらしきものが生えてくる。
行き場が無くて困っているように思えたので、竹をとってきて竹竿を作る。
よしよし。ひと株に4本ほど立ててやる。
豆は待ってましたとばかりに、竿にツルを巻き付け始めた。
3.jpg雨が降る。小雨も、大雨も。
風が吹く。そよ風も、突風も。そんな日は竿が抜けないかと心配だ。
日照りが続く。土が乾いて割れてきた。
飲み水をせせらぎに汲みに行くついでに、豆の分まで汲んでくることにする。
バケツは海岸に打ち寄せられていたのでそれを使っている。

なにもなかった畑に豆の株が生い茂り、きれいな花までつけ始めた。
赤いのがほとんど、なかには白いものもある。
うれしくて子供と手を取り合った。

しばらくして。

変な虫がついた。
はらぺこ青虫だ。と子供がさけぶ。
それが、よーいどんの合い言葉か。
あっという間に葉っぱを食べ尽くしてゆく。
こんなに悔しかったことが、かつてあったか。
こんなに憎いと奥歯をかんだことが、かつてあったか。

あなたは竹で作った箸で虫を引っ張ったりつついたりしながら取りのぞく。

虫との格闘が終わりを迎えようとしていたある日、あなたはとんでもない光景を見る。
鹿の親子が仲良く豆の花を食べているではないか。
早朝、もやのかかる畑で、幼き娘の手を引いて散歩していたあなたは固まった。
むろん向こうも固まった。
眠気なぞ一気に冷める。
「なにやってんだおまえら!」と島に来て初めてなにかを怒鳴った。

13-4.jpg翌日から、睡眠障害となる。

虫と鹿を思い出しただけで心臓が高鳴る。
バラ線や農薬が流れ着かないものかと海岸を歩いた。

かくして。

豆はあなたの手厚い愛情のおかげで、たわわにサヤインゲンをつけた。
収穫するとはかくも嬉しいものなのか。
我が子が生まれたとき、これほど嬉しくなかった。
青ザヤをさっと海水で茹でてみる。実にウマイ。
こんなにウマイものが世にあると思えない。
そして、喰っても喰っても、喰いきれぬほどある。

毎日毎日喰いすぎ用を足したら、緑のものが出た。
これはすべて豆でできているのだから、きれいなもんだよなぁ、という感慨がわいてくる。
娘よ、息子よ、おまえたちはどうだ。パパ、ボクもアタチも緑よ。実に美しい。
こんなにできるなら、あんなに鹿に目くじら立てなくてもよかったな。
クソの前で苦笑したのも初めてのことだ。

喰いきれずにほっといたサヤは、いつしかカラカラの褐色のサヤとなった。

これは冬になったら食べよう。そして来年の種にしよう。
サヤだけをそっと集め、ひとつにまとめてみた。
次にサヤから豆を出すために、棒でサヤを叩いてみる。
サヤから豆がはじける。

13-5.jpg海岸でザルが落ちていたという奇跡が起きたので、それで、豆とサヤを丁寧に分けてみる。
豆はきれいなムラサキの文様があった。
中には白いものも混じっている。

あまりにきれいなので、それを一日なでた。
そのうちにピカピカと光ってきて、ますますきれいになったので、
子供たちに磨くように指示をし、ガラスの瓶に詰めて置いておいた。

10粒ほどの豆が1年で1000粒にはなった。
この計算なら来年は100000粒にはなる。
鹿と虫にも喰わしてやってもまだ余る量だ。

冬になったらこの乾燥豆を水で戻し、煮て喰おう。
砂糖があれば汁粉ができる。もっとも砂糖などあるわけないが。
まぁいい、欲を言ったらきりがない。

いつの日か助けが来るまで、あなたはここで豆と暮らそうとガラス瓶の中の豆を見ながら決意する。

このはなしはおとぎ話ではない。
遠軽で知り合った「遠軽のとうさん」の話しをしよう。

ブログを検索:
http://www.mamehico.comを検索

アーカイブ

最近のエントリー



カテゴリー