2009/07/24

クルミド 影山知明 最終話


kageyama7-1.jpg影山知明-1973年、西国分寺生まれ。愛知県育ち。
東京大学、法学部卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。
その後、志を持ってベンチャーキャピタリストに転身。
昨年秋、生家の地にマージュ西国分寺を建てる。
そこに子供たちのためのカフェ「クルミドコーヒー」を開き、
試行錯誤の毎日を送っている。娘のゆのちゃんは今年2歳。
クルミドコーヒー 
http://kurumed.jp/

三軒茶屋、深夜2時。
あと6時間後、三茶マメヒコで一日限りのクルミ餅が始まる。
影山は事務所でクルミをずっと割り続けている。
かれこれ300個は割ったろう。
こういう気の遠くなるような作業を黙々とやることは嫌いではない。
いや、むしろ好きだ。
だから、でも。

kageyama74.jpg影山「クルミの殻を割るのは割合と楽しんです。次々と割って中身を取り出し、捨てた殻が山になっていくから張り合いがもてる。
けれど気が滅入るのはそのあとの渋皮をむく作業。
手で一つずつむくんだけど、脳みそみたいな形だからなかなかきれいにむけない。
なんかもっと別な良い方法とかあったんでしょうかね。
ローストしてひとつひとつ指先でむいていくという、
そんな正攻法しか思いつかなかった」

クルミは苦い。子供たちが口をとがらせていたのは、クルミの表面に付く渋皮のせいだ。
これを根気よく丁寧に取り除けば、除くほど味は優しく上品になる。
だから渋皮をむくことを面倒だけれど、やめようとは思わない。

明け方近くになってようやく、
影山の長い一日は終わり同時に一日が始まった。

午前7時半。開店30分前。
今日の予定数は25食分。25食は三軒茶屋では満足な数字だ。

影山 「25食。あとは走り続けるしかないです」

オープンしてほどなく、予想を外してお客さんはクルミ餅を次々頼んでいく。
影山は作り置きはせず、オーダーが入るたびに一つずつ作り置きせずに作っていく。

影山「クルミのクラッシュ感を出したいですから」

 kageyama72.jpg午前11時。
小さな子供が母親と二人、クルミ餅を食べている。
影山の娘、ゆのちゃん2歳だ。
時折、エプロン姿のお父さんがキッチンから見える。
そのことが、娘はまだ飲み込めてないのかキョトンとこちらを見ている。
ところが。
帰る段になり、扉の外でお父さんと別れの挨拶をした途端、ゆのちゃんが突然わーっと泣き出した。
影山は見かねて娘を抱き、彼女をキッチンに連れてった。
影山はキッチンで自分のやっている仕事を、2歳の娘にひとつずつ説明し出した。

まるめてね、豆をくるんでね、たれをかけてね、はいどうぞってね。

kakeyama53.jpgベンチャーキャピタリストを2歳の子供に理解させるのは難しい。
けれど、いまここで餅を丸めている父親なら「お仕事」を理解できる。
さっき食べたクルミ餅がなぜ苦みの無い優しい甘さだったのか。
娘にはお父さんの優しさだときっとわかっている。

影山「親として子供に、ああしなさいこうしなさいと言っても仕方ないと思うんですね。
子供が見ているのは結局、背中でしょう。子は親の背中を見て育つって、本当にそうだと思う。
何を言ったって、言ってることとやってることが違ってたら子どもには何も伝わらないでしょ。
自分がどう生きてるかを、見せるしかないと思う」

父がどう生きてるかを確認すると娘は、泣き止み静かに帰って行った。

午後10時30分。
最後のオーダーが入った。

「クルミ餅2つお願いします」
「はい」

この時点で今日のオーダー数は62。
これはすごい快挙ですよ影山さん!とマメヒコのスタッフがはしゃいでいる。

「あんまり美味しんで、クルミ餅をおかわりしたお客さんも何人かいらっしゃいました。あしたも渋谷に来るっておっしゃってました」

体調が悪い中、快挙を気力で成し遂げて、今日を終えた。

kakeyama56.jpg影山「ありがとうございます。皆さんのおかげです。
食べに来てくださった皆さんや、手伝ってくれたスタッフみなさんのおかげです」

明日は渋谷店。
予定数を大幅に上回った分、今夜はまたクルミ割りと渋皮むきで夜が明ける。
深夜0時。明日が今日になる。
影山はまたクルミを割り始めている。
今日クルミ餅を食べてくれる目の前の人のためだ。
どんなことだって目の前のことは、ひとつひとつ心込めてやりたい。
週末は本拠地クルミドコーヒーでクルミ餅だ。
明日朝一で軽井沢からクルミを送ってもらうよう頼まねば。

空高く鳥の目で先を見て、小さき虫の足で道を歩く。
そんな人になりたいと思う。

kageyama76.jpg影山「今日は明日の手段じゃないし、
明日も今日の目的ではないんですね。
今日、今こそが目的だと思ってる。
だからボクは、いつも自分の目の前にいる人を大切にしたい」

だからか。
影山のクルミ割りに、みんな朝まで付き合った。

kakeyama60.jpg

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