2009/07/13

クルミド 影山知明 第一話

kageyama1-1.jpg
影山知明-1973年、西国分寺生まれ。愛知県育ち。
東京大学、法学部卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。
その後、志を持ってベンチャーキャピタリストに転身。
昨年秋、生家の地にマージュ西国分寺を建てる。
そこに子供たちのためのカフェ「クルミドコーヒー」を開き、
試行錯誤の毎日を送っている。娘のゆのちゃんは今年2歳。
クルミドコーヒー http://kurumed.jp/

 「昔はね、ほんとこんな感じの駅前じゃなくて、森の中にぽつんと駅があるという印象でね」

昭和48年。西国分寺駅が開通したその4ヶ月後。
少年はこの町で生まれた。

「駅と同い年なんですね。ともに今年で36歳です。
だから駅も町もボクも変わって当然。大きく変わって当然なんですけど、なんですけどね」

こんなに変わっていいものかな。

移りゆくのが世の常としても、無心に木の実を拾ったあの森は、もはや知るよすがもなく、タクシーが黒い列をなすロータリーが今の姿だ。

町は色んなものを失ったと思う。
けれど一つの奇跡があったとすれば、
木の実を拾っていた少年は、失われたものを忘れずにいたこと。
そしてそのまま大人になったこと。

kageyama2.jpg去年秋。
森が消えたその町に、小さな森のような喫茶店ができた。
店の建物は、かつて少年の拾った一粒の木の実だった。
そしてその入り口に掲げられた店の名は「クルミドコーヒー」。
少年の好きな木の実が由来だ。

影山知明。36歳。
ベンチャー・キャピタリストとして何億という資金を動かす一方で、
少年の作った「クルミドコーヒー」は、新しい木の実をこの町に落とそうとしている。

午前10時30分。
開店と同時に常連客が店の中に入っていく。
「クルミドコーヒーとクルミドケーキ。丹波の黒豆と塩ミルクで」
「クルミドコーヒーにあたしはクルミプリン」

kageyama1.jpg梅雨の中休み。朝から夏の日差しがガラス張りの店内に眩しい。
次から次へ、お客は迷うことなく入っていく。
こんなこと、滅多にあるものではない・・・。

開店から10ヶ月。
エプロン姿の影山はひたすらお客を待つ日々だった。
店の前を通り過ぎる人が、ちらりとでもこちらに関心を示せば、すかさず笑顔で声をかけた。
ひと気の少ないこの町で喫茶店を開くなんて、辛抱するよと散々言われた。わかっていた。
わかっていたけれど、この町のこの場所でなければクルミドコーヒーはだめだったのだから仕方ないじゃないか。

大きな柱を囲みグルッと4層に分かれている店内は、
上も下も満席で、あきらめて帰るお客までいる。

kageyama3.jpg地下に、栃の木の一枚板のテーブルがひとつある。樹齢300年。
自分が生まれるよりずっと昔に、誰かが落とした一つの木の実がこのテーブルになっている。
そう思うと、とてもたのもしかった。
脇にはガラスボールがずらりと並べられている。
この店の名にあるクルミドコーヒーとは、この器具で丹念に抽出された水出し珈琲のことだ。

影山「うちの珈琲はすべてこの水出し珈琲です。
ホット珈琲はこの水出し珈琲を温めて。
アイス珈琲はこの水出し珈琲に氷を入れて。
ゆっくりゆっくり8時間かけて、ポタリポタリ抽出していく。味はすっきりしていると思われがちですが、案外、しっかりした輪郭の珈琲です」

 kageyama4.jpg水出し珈琲をアクセントとして出している店は多い。
器具そのものをインテリアとして。
しかしクルミドコーヒーは水出し珈琲しか、あえてやらない。
器具の部品によって抽出スピードが変わることしばしば。
室温や湿度によって出来、不出来が変わってしまうのも頭が痛い。

試行錯誤の連続だが、それでも、

影山「この建物は実を言うと、一本の木に見立てて建てました。恥ずかしんですけど、かつてあった木の実の森をもう一度取り戻したいという思いからです。
だから、このお店はこの木のほこらに住む小さなリスやネズミが経営してる。
だからクルミドコーヒーは、この木から滴る樹液なんだと、そういう風な思いでやってる」

あそこにも。ここにも。そっちにも。
店内のあちらこちらに小さなリスが木の実を抱えている。
秘密の穴が壁に開いてあり、そこを子供が覗いている。
ここから小さなリスが見えるよと、慌ててママを呼んでいる。

kageyama18.jpg店内には驚くことにリスだけが渡れる吊り橋があり、
驚くことに中央の柱はリスだけが住む分譲マンションになっていて、リスだけが通れるエントランスさえある。

エプロン姿で上に下にとちょこまか忙しそうだ。
影山さんがまるでリスのようですね。

影山「ボクの好物は殻から剥いたクルミと甘栗です」

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