2008/06/12

珈琲焙煎師 菊地良三 第十話

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菊地良三(よしみ)-珈琲焙煎師。札幌 菊地珈琲代表。67歳。
1941年(昭和16年)北海道・音更出身。
ジャガイモや豆を作る畑作農家に生まれる。8人兄弟。
札幌の大学を卒業後、大手珈琲商社に就職し、45歳で独立。自家焙煎珈琲
の店「菊地珈琲 キクチ珈琲」を開業した。
http://www.kikuchicoffee.co.jp
長年の経験による独自の珈琲は、主に札幌市内の喫茶店に届けられている。
2005年以降、都内では唯一、カフエ マメヒコに珈琲豆を卸している。

まり子「お店をやってるとね、色んなお客さまがいらっしゃいます。
疲れ果てて元気のない人、どこかお身体が不自由な人。
この店に何か不満を見つけちゃった人。
でもね。そういうお客さんこそ私は大切にするの。
そういうお客さんたちに満足してもらえれば、サービスの質は格段に上がるから」

サービス業は尽くし業、というのは菊地の言葉である。
菊地に喫茶店でのサービスとはどういうものなのかとたずねてみた。

菊地「あのね、喫茶店てのはね、ただ珈琲淹れて飲ませるだけの店じゃないのよ。風俗業、なんですよ。フウゾク。
いやヘンな意味じゃなくてね、クク」

菊地はとにかく話すことが好きである。話し出したら、時間が許す限り、いつまでもおしゃべりをしている。ここまでヒトヒコを読んでくださった皆様。菊地が頑固で寡黙な焙煎職人というイメージをお持ちでしたらいますぐ訂正いただきたい。菊地は愉快なおしゃべりおじさんなのである。

菊地「喫茶店てのはさ、男と女の出会いの場であるわけね。なにげなく隣の席に座った男女が、どういうわけかお知り合いになって、恋をして、結婚して子供ができて、なんてことがいくらでもあるのよ。
ほらあそこの年配の女性。おしゃれしてるでしょ。化粧もしないで割烹着で喫茶店に来るひとなんていないの。精一杯、身なりを整えて来てるよね。出会い。期待してるんだからぁ。若い人ならなおさらそう。喫茶店ですばらしい出会いがあるかもしれないとときめいて来てるのよぉ」

話し出したら止まらない。そしてその話はどれもおもしろい。

菊地「われわれ店員はカップルのデートだってスマートに演出しなくちゃならない。
たとえばほらあすこのカップル。
瞬時にどの程度のカップルか観察する。まだ日が浅いのか。そろそろ別れの予感なのか。
カウンター越しにちらちら見る。どうも会話が弾んでないな。よしっ。ここはわたしの出番。まかせといて。ククク。
おしぼりの出しかた、グラスの置き方一つでね、あの二人の空気を変えることができちゃうんだから。いやいやほんと、ほんとなんだからぁ。
これが喫茶店の真のサービスってもんです」

父はこの仕事が好きなんです。とつぶやいた息子の顔を思い出す。
実に楽しそうに話すのである。菊地はヒトが好きなんである。

菊地珈琲も世代が変わろうとしている。

菊地は一番大事なのは焙煎技術ではないと繰り返す。なぜなら身につけた技術はお客さんの気持ちを汲み取れて初めて活かされるからだと。
お客さまはいったい何を望んでおられるのか。どういう珈琲をお望みなのか。お客の気持ちをくみとっていない、ひとりよがりの豆などいくら焼いても無意味なのだ。

まり子「いずれあの子も今父がやっていることをすべて一人でやらなくてはならないときが必ずきます。
苦労すると思います。
でもそれを伝えるのが私の役目」

 
vol2-4-4.jpg博樹は去年、仕事の合間を縫って、エチオピアの珈琲農場を訪れた。
当たり前のことだが、珈琲豆は外国からやってくる。
日本から遠く離れた赤道直下からやってくるのだ。わずかの収入を対価に悪環境で珈琲豆を栽培しているひとたちがいる。彼らは見知らぬ国の日本人のための珈琲を栽培している。想像もつかぬ贅沢の下で自分が摘んだ珈琲が飲まれていることなど、彼らは知るよしもない。

日本人「ソンナコトイチイチ考エテタラ、オチオチ珈琲ナンテ飲メヤシナイ」

博樹は、去年訪れたエチオピアの珈琲農場の光景が脳裏に焼き付いている。やせた子供たちが珈琲を摘む光景を目の当たりにして、焙煎師として考えさせられることが多かった。

 
 博樹「世の中には珈琲に関わるだけでもありとあらゆるヒトがいることを知りました。豆を作るヒト。港まで運ぶヒト。船を運転するヒト。豆を厳選するヒト。大きい工場なら機械で豆を砕くためだけのヒト。なんてのもいる」

vol2-4-3.jpg博樹はエチオピアで見たその光景をホームページで紹介している。

博樹「自分のところにこの豆が届くまでに実に多くのヒトの手を渡ってきているんですね。
自分の知っている世界だけがすべてだと思いがちですけど、自分がやっていることなんてその過程のほんの一部なんですね」

豆を焙煎する際、生豆の袋に変わった異物が混入していることがある。

vol2-4-2.jpg博樹「これなんだと思います?拳銃の薬莢です。こっちはヒトの歯です。この豆はいったいどんなヒトが袋に詰めたんだろう」

店の中に大きな人間ドラマを見ている父。
店の外に大きな人間ドラマを見ている息子。
二人の焙煎師は、同じものを見ている。

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