2008/06/11

珈琲焙煎師 菊地良三 第九話

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菊地良三(よしみ)-珈琲焙煎師。札幌 菊地珈琲代表。67歳。
1941年(昭和16年)北海道・音更出身。
ジャガイモや豆を作る畑作農家に生まれる。8人兄弟。
札幌の大学を卒業後、大手珈琲商社に就職し、45歳で独立。自家焙煎珈琲
の店「菊地珈琲 キクチ珈琲」を開業した。
http://www.kikuchicoffee.co.jp
長年の経験による独自の珈琲は、主に札幌市内の喫茶店に届けられている。
2005年以降、都内では唯一、カフエ マメヒコに珈琲豆を卸している。

「○○するように心がけています」
「○○になるよう心がけなさい」

「心がけ」。
菊地の口癖である。心がけるのだからすぐに結果を求めているのではない。できなくてもいい。心がけさえできていれば結果はおのずとあとからついてくるというのが菊地流だ。
菊地は毎日毎日、単調な日々を、楽しくなるように
「心がけ」てきた。
「心がけ」のおかげで、22年の日々は楽しかった。

菊地は配達に出る前の午前中、店員として接客をする。自分の焼いた珈琲を自分が淹れ、お客様にお出しする。自分の焼いた珈琲を飲むお客の姿を毎日見る。商社時代にはできなかったことだ。
マスターとしてお店に立つようになって、菊地は珈琲の味で「心がけ」ていることがある。

vol2-3-2.jpg菊地「ワタシはちょっと粗めに豆を挽きます。多めの珈琲を粗く挽いて淹れる。
ぬるめのお湯で少しずつ、細かく。そうすればすっきりした珈琲になる。
飲んだ後、水が欲しくならないような、すっきりした珈琲を心がけてるんです。
珈琲を飲んだ後のお客さんが水を飲んだら後味が悪かったんだと反省します」

すっきりした珈琲を心がけている。
菊地のこの「心がけ」は焙煎を任されている息子、博樹にも徹底される。そのためのダブル焙煎であり、そのための焙煎技術なのだ。
古い常連ともなれば20年近く菊地の珈琲を飲んでいる。
カウンター越しにお客の顔を見れば味の変化がすぐにわかってしまう。
だからこそ、焙煎師の息子には厳しく言ってきた。

菊地珈琲の味を決めるのが焙煎師だとすれば、菊地良三は間違いなく現役の焙煎師である。

しかし、なぜ自分が焙煎を続けようとは思わなかったのか。
息子にあっさりとその座を譲ってしまったのか。
それは隠居暮らしを望んだからではない。
変わらないものを提供しつづけるために、変わらなければならないことを菊地は知っている。
息子に焙煎を引き継ぐ。最新の焙煎機に変える。大きな2号店を構える。東京のカフェに卸す。菊地はいつでも臨機応変に変わり続けてきたのだ。良いものは残しても、しがみついてはいけないのだ。
息子、博樹もそれにちゃんと答えてきた。
だから今の菊地珈琲がある。

vol2-3-3.jpg妻のまり子は言う。

まり子「今はほんとによくなりました。少ない人数ですが、みんながそれぞれに持ち場をわきまえてお客さんのために専念してます。菊地の考えをみんなで共有して店を回してるんです。すごいことです」

突然、夫が喫茶店を始めたときは辛かった。
22年後、まさかこんな幸せが訪れるとは思わなかった。ついてきてよかった。

まり子「当時は大変でした。全く未知の仕事でしょ。始めたのが結構な歳になってからでしたから。体力的にもね、ほんとに立っているだけでも大変でした。慣れるのに2年近くかかったかな。
売り上げももちろん立たなくてね。いろんな方に助けていただきましたから今があります。どこもそうでしょうけど、開業からの志を貫き通すというのは並大抵のことではありません」

常に笑みをたたえている。接客のときも笑顔を絶やさない。菊地よりも口数は少ない。控えめだ。
すらっとした立ち姿の感じのいい奥様だ。息子の博樹は、母に似たのだろう。

vol2-3-4.jpgそんなまり子に会いに来る常連客が多い。
まり子は常連のお客にほど、きちんと挨拶をしている。いらっしゃいませ。こんにちは。
珈琲を飲んでいる間は友達のような顔でざっくばらんにはなしていても、客が帰るとなると、きちんと店員の顔に戻る。
いつもいつも、ありがとうございました。320円頂戴いたします。お金を頂戴するのだ。お客は友達ではない。
まり子は店員とお客という垣根はけして越えないように「心がけ」ている。

まり子「開店当初の苦労を乗り越えてきたというのがワタシの強みです。だからいまこうして22年経って、気持ちにゆとりが持てるの。
大変なときに自分を信じて続けていれば、必ずうまくゆきます。そしてゆとりとはその苦労から生み出されるんだと思います」

自分ヲ信ジ続ケテイテモ、ダメ ナトコロハ イクラダッテアルゾ。
菊地珈琲ハタダ単ニ運ガ良カッタノダ!!

そういう声がよしんばあるのなら、是非ともこうお伝えしたい。

「菊地珈琲は運がよかったのではありません。心がけ が良かったのです」
と。

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