2008/06/04

珈琲焙煎師 菊地良三 第三話


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菊地良三(よしみ)-珈琲焙煎師。札幌 菊地珈琲代表。67歳。
1941年(昭和16年)北海道・音更出身。
ジャガイモや豆を作る畑作農家に生まれる。8人兄弟。
札幌の大学を卒業後、大手珈琲商社に就職し、45歳で独立。自家焙煎珈琲
の店「菊地珈琲 キクチ珈琲」を開業した。
http://www.kikuchicoffee.co.jp
長年の経験による独自の珈琲は、主に札幌市内の喫茶店に届けられている。
2005年以降、都内では唯一、カフエ マメヒコに珈琲豆を卸している。

菊地が開業以来、かたくなにそのやり方を変えていない焙煎方法がある。
それは「ダブル焙煎」だ。

菊地珈琲で焼く豆は、粒の大きい質の良い豆を使っている。
しかし、そのことは焙煎を難しくしている。
珈琲豆は木の実本来の、口当たりの悪い酸味や、渋みを含んでいる。それがそのまま抽出されてしまっては、渋すぎる、酸っぱすぎる珈琲ができてしまう。

菊地「大きいお豆っていうのは表面だけぱっと焼くと中がレアでその雑味が残ってしまう。
だから面倒でも二度焼きして、生豆の水分を丁寧に飛ばしてやる必要があるわけです」

やり方はこうだ。
生の豆を一度、焙煎釜に入れる。
焼き上がらないうちに釜から出し、完全に冷ましてしまう。
それを再び釜に入れ、焙煎師の狙い通りの焼き上がりにする。

「狙い」とはどういうことか。
珈琲豆は、モカやキリマンジャロといった産地の違いで味が変わるのは当たり前だ。
しかし、焼き方、つまり焙煎師の「狙い」によってもまた、いかようにも味が変わるのである。
たとえば単純な話。同じキリマンジェロでも、深く煎った珈琲と浅く煎った珈琲では全く味が違う。
深く煎った(より焼いた)豆の方が酸味は少なく、浅く煎った豆のほうが酸味などの豆の特徴が出やすい。
焙煎師とは、季節や豆の善し悪しを見極め、各々の個性を持つ生豆を自分の思い描いた理想の珈琲の味に近づける職人だ。
その要素は極めて多く、こうやったらこうなるとセオリー通りには中々いかないらしい。

それでは、どの焙煎所も豆を美味しくするダブル焙煎をしているのかと尋ねてみた。

vol1-3-2.jpg菊地「どうですかね。
よそのことはわかりませんけど、同じ豆を二回も焙煎するから、手間は倍かかるね。
それと、ダブル焙煎で焼きあがったお豆は中の水分もきちんと飛ばしてるでしょ、だから見た目の割にとても軽い。
珈琲豆ってグラムいくらで売るでしょ。
軽い豆は量がいるから。
ダブル焙煎っていうのは商売としては効率悪いね」

あのひとらしいと妻のまり子は思っている。
創業時は見よう見まねで喫茶室を手伝っていた妻も、気づけば22年間お店に立ち続けていた。

味に対して徹底したこだわりがあるように見える菊地だが、そんなことはないと少し真面目な顔をして言った。

菊地「うまいまずいと簡単に言うけど、珈琲は嗜好品だから一口には言えないところがある。この人にとっておいしいものがこの人の口には合わないよということがいくらだってある。
たしかに味は命です。
でもいちばん大切なのは味ではない、うんそれはさ。
あら、いらっしゃい」

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扉が開いた。
お客がきたみたいだ。配達を終えた菊地と話をしようと、午後の店には多くのお客が訪ねてくる。菊地の午後の日課はこのおしゃべりだ。

珈琲にとって一番大切なものって何なんですかね? 

カウンター越しに妻・まり子にそうたずねると、菊地と来客、二人分の珈琲を手際よく淹れながらこう答えてくれた。

まり子「それはヒトですよ、ヒト」

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