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みんなたちへの豆教室 VOL.36

みんなたちへの豆教室 VOL.36

 

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服部さんのお家に1頭の馬がいます。
名前は里花(リカ)。牝馬です。
どさんこ馬らしく、足腰がしっかりした馬です。
昔はなんでも馬でした。3頭いましたが、一番賢い里花だけが残って1頭になってしまいました。

服部さん「里花。おめえお客さんが東京から来たぞ。よかったな。ほらよ」

というと里花はボクたちに近づいてくる。
この里花が服部さんにとってかけがえのない家族のような存在なのは見てればすぐわかる。
里花も自分のことは家族だと疑わない顔をしてるからです。

この里花が、薬を使わずに野菜を作るうえで、とっても大切なんだと服部さんの話しを聞いてわかりました。
里花の吐く息はもうすっかり白く、秋色に染まる森が駆け足で冬支度をしている。
北海道のはずれ、ここは遠軽町という小さな町です。

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服部さん「ほれ見てみれ。森。ほらそこの森。赤や黄色できれいだろ。うん。きれいだ。きれいだなー」

としばらく見とれて。

服部さん「いい。畑には落ち葉が一番のごちそうだ。
あの落ち葉を里花のクソと混ぜたら、最高の肥料なんだ。
赤と黄色の落ち葉に里花のクソ。
これが一番だ」

とまたしばらく見とれて。

服部さん「したっけ、そっからは緑だな。うんミドリだ。うんミドリだ。ミドリだ」

とまたまた、見とれて。

服部さん「そのミドリはカラ松の畑だ。ニンゲンが植えたカラ松畑だ。
カラ松の落ち葉はダメなんだ。
緑の針葉樹は油が強くてダメなんだな。
ここらにも製材屋さんがあるな。あるある。
そこで木っ端、木くずをもらって、おがくずだな。おがくず。おがくず。
あれを肥料にしようと思っても油が強くて肥料にならん。
燃してみるべ。
灰になるべ。
それでも油は残って、肥料にならんだわ。

やっぱり広葉樹の赤や黄色の葉っぱが一番だわな。
神様が作ったもんは、違うんだな。
全然違うんだな」

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小さなヤマに囲まれたのどかな村です。
きれいな小山が幾重にも重なって見えますが、その赤や黄色のグラデーションに、虎刈りの頭のように、緑の帯状のラインが走ってるんです。
元々は広葉樹だった森を、切って売れる針葉樹の畑にしてしまったんですね。
針葉樹は紅葉しませんから、そこだけ緑の人工的なラインが、黄色と赤のキャンバスにピーッと走ってるんです。

服部さんは、薬を使わずに作るためには土をよくしなくちゃダメだと思っています。
服部さんの大切な堆肥づくりのために、里花は欠かせないのです。
里花のクソは欠かせないのです。

服部さん「昔から馬のクソは土が温まる。と言ってな。
牧場にいけばいくらでも牛のクソがあるけどよ。
里花のクソにはかなわないんだ。

あいつのおかけで、こうして野菜が作れてるんだ」

里花の遊ぶ庭のそばには、豆がらや牧草なんかを混ぜて作った服部さんの大切な肥料が積んであります。

北海道では馬のクソのほうが、牛のクソよりもいいとされています。
それはなぜか。
ちょっと勉強になりますけどね。

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馬の胃は1つ、牛の胃は4つなんです。
それがクソに大きな差が出る。
牛は一度食べたものをゴクンと飲み込んでから、またゲボと口に戻し、またゴクンと飲み込んで、またゲボりと出すということを繰り返して食べるという、友達にはなりたくない気持ちの悪い食べ方をします。

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でもそうすることで、草の中にある栄養を全部、消化吸収することができるんです。
一方。馬はそんな汚い食べ方をしません。
人間と同じような食べ方をします。
だから馬のクソには栄養がまだいっぱい残ってる。
牛のクソは栄養を吸収しちゃってるから、栄養素が少ないんです。
馬のクソは栄養たっぷりで、微生物がたくさんいる。
だから、いつまでも湯気が立ってるほどです。
北海道は寒いですから、馬のクソは畑を温めるといって昔から大切にされてきたんです。
となると人間のクソもいつまでも湯気が立ってることになります。

服部さん「馬のクソを使った良い土って言うのは、ふわふわしてる。
ほら見てごらん。
こういう肥えた土地にはこうして、ハコベが生える。
ハコベだ。ハコベ。
このハコベが生えた土が良い土なのさ。
こういう土で育てれば、植物も元気だから、虫もつきにくいし、病気にもなりにくい」

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どうなんだろう。
昔のヒトというのはやはり知恵があるんだよね。
きっと馬の胃袋が1つだとか、牛は4つだとか知らなかったはずです。
それでも馬のクソは温まると経験で知っていたわけだから。
北海道にかつて住んでいたアイヌはそういう知恵で生きていたすばらしい民族です。

 「昔は自然がくれる利子の一部で暮らしていた。けれど日本人は自然という元金にも手を付けた。元金に手を出せば元金自体も減る。それがなぜ分からないのですか」
とおっしゃったのはアイヌ民族で国会議員の故萱野茂さんです。

遠軽もかつてはアイヌの地でした。
エンガルとはアイヌ語で、見晴らしの良いところという意味ですから。
白樺樹液でおなじみのインカルシベと偶然にも同じです。

服部さん「畑から取るばっかりじゃだめだな。もらった分はちゃんと返さんとな」

だから里花のクソをちゃんとお返ししてやるんだと笑ってる。

こういう言葉は胸にぐさぐさきますね。

「アナタノヤッテル、マメヒコハサゾカシスバラシンデショウネ」。

全然できてないです。元金に手をつけてつなわたりを転ばぬように渡る毎日です。
そんなことを考え出すと、ワーッと叫びながらどこかに走り出して、なにもかも放り出したいような気分になってしまいます。

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